第57話




「城山琉偉を好きになったーーー!?」



玲美が今年一番の驚きようを見せている。こんなに大きな口を開けている玲美を見るのは初めてだ。



「あんだけ城山琉偉のことはただのオタクだって言ってたくせに……あらあらまぁまぁ」


「やめとけって。いくらお前のファンとはいえ、相手俳優だぞ。周りに美人な芸能人いっぱいいんだぞ。付き合ったところですぐ浮気される……いでッ!」



ニヤニヤしながら詰め寄ってきていた玲美は、デリカシーのないことを言う空斗の頭を勢いよく叩いた。


空斗は同学科の男友達の前では猫を被っているようだが、玲美の前でもすっかり素を出している。



「……別に、あいつとどうこうなりたいわけじゃない」



琉偉が有名俳優であることもその意味も十分理解している。私の存在が世に知れたら迷惑がかかることも。



「むしろ、今後直接会うのはやめようと思ってる」


「ええ~~~? 何でよ」



何で玲美が残念そうにするんだ…………。



「今までが異常だったんだよ。本来は特別扱いすべきじゃない一人のオタクをビジネスパートナーなんて言って利用して、何度も会って……って、私も考えが甘かった」


「雪は難しく考えすぎよ。こんな面白い、あ、いや、貴重な状況なかなかないわよ?」


「面白がってるよね? 今、口滑らせてたけど?」



おっといけない、と玲美が口を手で隠し、ん゛ん゛ッと咳払いして言ってきた。



「まぁ、雪自身が色々考えて決めた方針なら私はこれ以上口出さないけど。城山琉偉は雪の気持ち知ったら喜ぶと思うわよ?」


「……」



それは分かっている。でも、出会い方が出会い方だし、琉偉の職業は俳優だし、中高生が同級生を好きになったくらいのノリでは告白できない。


静かに首を横に振ると、玲美は「そっかあ……まぁ、そうなるわよねえ」と言うだけで、それ以上は何も口を出してこなかった。

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