FILE5. 嫉妬心
第55話
『はあ、好きだよ……愛してる……!!』
「マジでやめろおおおおお!!」
空斗が必死に私のスマホを奪おうとしてくるのをニヤニヤしながら逃げる。
――最近の私は、空斗の配信の恥ずかしい愛の囁きシーンを本人の前で再生するという最低な嫌がらせにハマっている。
「はーいこらこら、二人とも座って。雪も、小学生じゃないんだからそんな方法でいじめるのやめなさい」
玲美が私たちを宥めながらテーブルの上にクッキーを置いた。玲美のお母さんはお菓子作りが上手で、たまにこうして作ってくれる。
私と空斗がたまに食事を共にしていることを知った玲美が面白がって話しかけてきた辺りから、私と空斗と玲美はたまに三人で遊ぶようになった。今日も玲美の部屋のテレビの前で寛いでいる。玲美の家が私と空斗の帰り道の途中にあるのがデカい。授業で疲れたけどまだ帰りたくないな~という時にちょうどいいのだ。
私たち三人はそれぞれ大学の課題に取り組んだり、活動用の動画や写真編集をしたりして過ごす。そして、やることがなくなったらダラダラテレビを見て一緒に晩ごはんを食べて帰る。全員の大学の授業が早めに終わる水曜日はこの過ごし方がルーティンになりつつある。
「ねえ、今日は城山琉偉が主演のドラマ観ない? 先週から始まった春ドラマ。私録画してるのよね」
予想外のタイミングで琉偉の名前が出てきて噎せた。折角おいしいオレンジジュースを飲んでいたというのに、ゲホッゲホッと大きく咳き込む私を見て空斗はギャハハと笑い、玲美は「ちょ、大丈夫?」と背中を擦ってくれる。
「何でもない、見よっか」と言って玲美の代わりにテレビの電源を入れた。
――テレビを徐々に観られるようになってきたとはいえガツガツ観るわけではなかった私が抵抗なく積極的にドラマ鑑賞するようになったのも、琉偉とのあの一件があってからだ。琉偉の言葉のおかげで私の中にあった劣等感がかなり払拭された。
玲美の家に初めて来た時、「テレビつけよーぜ」と言った空斗を私のテレビ嫌いを知っている玲美は止めたが、そこで「いいよ」と言えたのも琉偉にああ言われた後だったから。
最近はだんだん俳優や女優の名前も分かってきたし、その中でも琉偉がどれほど注目されているか再認識できてきた。
「お前らいいよな。こんな有名俳優と会ったことあんだろ」
あぐらをかいてクッキーを食べながら、空斗がテレビに映る琉偉を指差した。
「私はそんなに会ってないわよ。雪の活動の手伝いをするのにたまにうちの家貸したくらいだし」
「ど? テレビで観るのと実際に見るの」
「やっぱ実際見るとスタイルの良さ凄い感じるのよね。テレビの中にいる時は周りもレベチだからあんまり感じないけど、直接見ると顔面偏差値の高さ、足の長さが一般人のそれとは違うわ……ってなる。今度もし城山琉偉がうちに来る機会あったら会う? 雪と城山琉偉が許可したらだけど」
「マジ? 会えんの。サインもらおっかな」
玲美と空斗が琉偉の話をする中、私はドラマに集中するふりをしてずっと黙り込んでいた。
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