第52話
「琉偉のこと信用してるし、私の本気で嫌がることはしないと思ってるけど、違う?」
活動を長くやっていると、害悪ファンと良ファンの違いくらい見分けが付く。琉偉は私のことをただの“ネット上でグラビアアイドルみたいなことをしてる女”というよりは、“尊敬している対象”として見ている。それが分かるから、暴走はしないだろうと予測できる。
「……それ言われたら、俺ほんとに手出せないじゃん」
「どのみち出さないでしょ? 他のファンに対しても油断されたら困るから脅してるだけで」
分かってんだよお前のことは、という目を向けると、琉偉はバツが悪そうに頭をかいた。
「ゆきちゃんは狡いなぁ……」なんてボソボソ言いながら私から目をそらしていた琉偉は、不意にこちらへ向き直る。
「……ねぇ、昼間に言ってた挫折したことあるか、って、どういう意図の質問だったのか聞いてもいい?」
琉偉からその話をしてくるとは思わなかった。信用していると伝えたことから、踏み込んでもいいかもしれないと思ったのかもしれない。
「あ、もちろん、ゆきちゃんが話したくなければいいよ! でも、あの時のゆきちゃん、すごく辛そうだったからずっと気になってて」
「……」
少し悩んだ。この話は玲美にしかしたことがない――私の最大のコンプレックスの話だ。玲美にも一回したきりで、それ以降は誰にも喋っていない。話せないというわけではないが、今も思い返すのは苦痛。
私はカップの中のハーブティーを飲んでから、頬杖をついて言った。質問されてからそれなりに長い間を開けてしまった気がする。
「私、元々女優志望だった」
「女優?」
「何度もオーディションに参加して、いいところまで行ったこともあったんだけど、結局無理だった」
有名俳優を前にこんな話をすることになるなんて。話していると改めて自分と琉偉の差を自覚してしまい、劣等感がした。
「本気で女優を目指して努力してた。けど無理だったの。それが私の人生最大の挫折」
そこから私はテレビを観ることができなくなった。最近は琉偉の影響で少しは観られるようになったとはいえ、それまではテレビの中の女優や俳優が妬ましくて、コンプレックスを刺激されて、すぐに電源を切っていたくらいだ。
「今日琉偉の演技を見た時、やっぱりレベルが違うなって感じて自分が恥ずかしくなった。琉偉だけじゃない、他の女優さんも、みんな綺麗で演技がうまくてキラキラしてた。自分はこんな世界で、あの人達と一緒に並べると思ってたんだ、って、自分が自惚れてたように感じて恥ずかしかった」
諦めるな、夢を追い続けることが美徳だと人は言うけれど、どうしたって越えられない壁はある。努力でカバーできる範囲にも限界はある。あるところでそれを強く自覚した私は、女優を目指すことをやめた。
でも今日改めて自分が目指していた場所を見せつけられて、やっぱり羨ましいなと思ってしまった。
「いつも適当に扱っちゃってるけど、あんたのことは本当に凄いと思ってるんだよ。私に成し遂げられなかったことをやってるし、私にはない才能を持ってる。正直、羨ましくて妬ましいし、そう思う自分が小さくて嫌い」
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