第46話

からかうような声音で言われたせいでカアッと顔が熱くなった。



「そういうわけでは……」


『琉衣は撮影されそうになったらどこにカメラがあっても気付くので、僕としてはそういう意味でも心配ではないんですが……まあいいでしょう。ご心配なようでしたら貴女一人で来てください。ついでに撮影現場見ていきます? 今日の現場、目立たずこっそり見れるスペースがあるんですよ。撮影自体は今日の夕方からですし、それまでにプレゼントを準備して、それから来て頂ければ』



撮影されそうになったら気付くって何だよ。あいつ訓練されたスパイかよ。



「行かないって言ってるじゃないですか」


『そう言わずに。見たことないでしょう、琉偉の演技。貴女が後で褒めてあげれば琉偉のモチベーションも爆上がりですよ。今回の映画も大ヒット間違いなしです』


「俳優一人のモチベーションが映画の興行収入に影響するわけなくないですか?」


『え、それ本気で言ってます?』



本当に驚いた、という風に、藤井さんが言う。



『琉偉にできないことがあると思ってるんですか』



何も言い返せない自分が悔しかった。





 :




結局藤井さんに流された私は、撮影現場に足を運ぶことになった。


入り口まで藤井さんに迎えに来てもらい、こそこそと藤井さんに付いていく。撮影現場には様々なセットや道具が並んでいて、スタッフたちは忙しなく動いていた。遠くに琉偉が見えた。名前は知らないけれど顔は見たことがある、おそらく俳優やら女優やらも立っていた。


人が多くて、確かにこんな端っこに立っていても誰も気付かないだろうと思った。おまけに藤井さんは身長が高く、二メートルくらいある。藤井さんを隠れるための壁にして立っていれば周囲からは気付かれない。


遠くにいる真剣な表情で監督と話している琉偉を見て、仕事モードの時の顔付きはやっぱりいつもと違うんだと思った。



まもなく撮影が始まる。


と同時に――――琉偉の雰囲気が、一瞬で変化した。


さっきまでの表情とは一変、目付き、口元、気迫、雰囲気、その全てが――別人になった。



息を呑む。いつも相手している琉偉とは違う人間がそこにいる。声の出し方も、感情の入り方もまるで違う。


役になりきるってこういうことなんだ。俳優という職業は凄い。



人間誰しもギャップには弱いので、不覚にもドキドキしてしまった。


そして、劣等感もした。



レベルが違いすぎる。


私が過去に目指した芸能界という世界が目の前にある。でも、芸能界はこんなに遠いものだった。



オーディションに出ていた頃の私がした演技とはまるで違うそれに、この場から消え去りたいくらいの恥ずかしさも覚えた。

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