第45話
LINEを開き、割と上の方にいる“藤井”とのトーク画面をタップする。
私は彼からの【最近琉偉とはどうですか?(・∀・)ニヤニヤ】というほんの少し会話を交わしただけの間柄からのメッセージとは思えないふざけたそれを、未読無視していたところだ。
『はい、藤井です。』
琉偉の炎上の時、“何かあればすぐ電話してください”と連絡先を教えてくれた琉偉のマネージャーの藤井さん。彼はワンコールで私からの電話に出てくれた。
かけてみたはいいものの、こんなことで売れっ子俳優のマネージャーの時間を奪って良いものかと若干後悔した。
「……すみません、間違えました。切ります」
『ああっ、ちょっと、待ってください。どうなさいました?』
「いや、よく考えたらしょうもないことでした。切ります」
『しょうもないことでもいいですよ。貴女は今の琉偉を作り上げた一部、僕のビジネスパートナーでもあるんですから』
だから私は何もしてないって、と反論しようとしたが、この人にとってはそういうことになっているのだから放っておこうと思って言葉を呑み込み、本題へ入った。
「あの、明日って琉偉の誕生日ですか?」
『はい。ご存知だったんですね』
「彼にはいつもお世話になっているので多少は祝いたいんですけど、私がプレゼントを藤井さんに預けて、藤井さんから渡してもらうことって可能ですか?」
琉偉が最近ドラマの撮影中で忙しいことは分かっている。琉偉に言えば無理矢理にでも会う時間を作ろうとしてくるだろうが、忙しい時にそんなことはしてほしくないので、琉偉には伝えず藤井さんに間接的にプレゼントを渡してもらいたい。
まぁ、藤井さんも忙しいだろうから望み薄だけど……と思っていると、
『ゆきさん、今からこちら来れますか?』
ぽん、とトーク画面に謎の住所が送られてきた。
「……どこですかここ」
『琉偉と今日から泊まる、撮影現場の近くのホテルです』
調べると、私には一生縁のないような高級ホテルだった。
『実は僕もサプライズで今晩琉偉のお祝いをしようと思っておりまして、誕生日予約をしています。今からホテルに連絡して人数増やしますので、ゆきさんも来て頂ければ』
「それって藤井さんと琉偉が泊まるところに私が割り込むってことですか?」
二人で同室に泊まるくらい仲良いのか藤井さんと琉偉って。普通マネージャーって別室だよね……?
『琉偉はきっとその方が喜びますよ。男だけでご不安でしたら、ご友人と一緒に来て頂いても構いません。琉偉とも会っている方もう一人いらっしゃいましたよね。確か玲美さん、でしたっけ』
この人大丈夫かなと不安になった。だって、私も玲美も藤井さんにとって信頼に足る人間ではないはずだ。世の中には周囲にマウントを取りたくて有名人と繋がっているという匂わせをSNSで行う人間だって沢山いるのに、この人はその可能性については微塵も警戒していないんだろうか。
「あー……やめておきます」
『どうしてですか?』
「自分から電話かけといてこういうこと言うのもあれですけど、不用心すぎますよ。私と玲美が琉偉を陥れる種になるかもしれないじゃないですか」
少し間があった後、電話の向こうで笑い声がした。
『っははは、やっぱり面白いですね、ゆきさん』
「大真面目に言ってるんですけど。琉偉のマネージャーなら、その辺しっかりしてください」
『安心しました』
「はい?」
『僕が思っているより貴女は琉偉のことをちゃんと考えているようなので』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます