第42話




『ゆきちゃんゆきちゃん! 企画すごく良かったよ!』



ビデオ通話を繋ぐなり、画面の向こうの琉偉が嬉しそうに伝えてくる。


最近琉偉は仕事がとても忙しそうで、私もなんだかんだ忙しかったので日程が合わず、企画を始めてからは初のビデオ通話になる。


琉偉は楽屋のようで、背景がいつもと違っていた。



「……私、配信で課金してもらった分全部あんたに支払った方がいいかもって思ってるんだけど」


『どうして? 俺は楽曲を提供しただけだよ』



その楽曲が今どんだけバズってるのか知らないのか、こいつは。


琉偉には先払いで楽曲の使用料を払っているけれど、それも大した額じゃないし、どう考えても労力に見合っていない。


でもこれ以上お金を払うと言っても琉偉は断ってくるだろうし、何か他に私がお礼できるとしたら何だろう。



「琉偉、私が何でも一つお願いを叶えてあげるって言ったらどうする?」



問うと、琉偉は数秒固まった後、じわじわと顔を真っ赤にしていった。


オイオイ、何考えてるんだ。体を要求されたらどうしよう、と自分の発言を後悔していたその時、黙っていた琉偉の口が開いた。



『で、デート……』


「え?」


『デート、してほしい……』



ぼそぼそとした喋り方だが、何を言っているのかは聞き取れてしまった。



その直後、琉偉の背後から琉偉を呼ぶ声が聞こえた。



『あ、ごめんゆきちゃん、実は今から撮影で……! 今夜の配信も絶対観るから!』



本当に忙しそうな琉偉は慌ただしくビデオ通話を切り、私のいる室内に静寂が訪れる。


私はゆっくりとパソコンを閉じた。



「なんだあいつ……何でもいいって言ってるのに、それだけかよ……」



っていうか有名俳優のくせにデートなんかしていいわけ? と思いながら、机に突っ伏した。


何故か自分の顔が熱いことに気付き、熱か? と思って額に手を当てる。



何でだ、おかしい。あのラブソングを送られてから、琉偉と話していると不整脈が続くのだ。




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