第41話



月間ランキングが出た翌日、大学でたまたまyamato……いや、空斗と出くわした。


相変わらず見るからに陽キャ大学生といった見た目をしていて、こいつが裏で夜な夜な複数の女性視聴者に向けて囁きボイス配信しているなんて他の誰も思わないだろうと思う。


あれ以降嫌われていることが予想されるので、私は話しかけずに通り過ぎようとした、のだが。



「おい」



珍しく空斗の方から私に話しかけてきた。


立ち止まって見上げると、空斗はぶっきらぼうに「よかったな」と言ってきた。



「……何が?」


「はあ? お前あんだけ俺に勝つとか言ってたくせに、忘れたのかよ」



こいつもちゃんと月間総合ランキングは見ているらしい。



「あれは、私じゃなくて琉――……」



琉偉が、と言いかけて、別の言い方に変えた。



「ファンの力だよ」



私の言葉に空斗が目を見開く。



「……お前、マジでファンのことそんな風に思ってんだな」



ファンのことを性欲に支配された猿としか思っていない空斗には分からない感覚だろう。


まぁ、この間はキツい言い方しちゃったけど、ファンをどう思おうが空斗の自由でもあるので、どうでもいいけど。



「お前の配信聴いた」


「……何で?」



興味ないくせに、と訝しげに聞いてしまった。



「お前があまりにも俺を目の敵にするから。どんな配信する気だって気になった」



企画と方向性は空斗が言う通り間違っていた。ニーズが違ったと私は思っている。


バカにされるだろうと思って次の言葉を待っていたが、空斗が放ったのは私が予想していたどの言葉とも違った。



「お前の歌良かったな」


「……曲じゃなくて?」


「あのカラオケの時よりはマシだった」



まさか褒められるとは思わず、空斗を凝視してしまう。



「ファンのために努力してんだな」



努力……そうなんだろうか。


努力というよりは、当然のことをしているだけな気がする。貢いでくれるオタクたちのことは継続的に喜ばせなければならない。



「お金を支払ってくれる人たちに対しては、それだけの価値を提供しなきゃって私は思ってるから」


「ネットの露出系アカって、もっといい加減な奴がやってるもんだと思ってたわ」


「……失礼なこと言うね」



他の露出人間たちがどんな思いでやっているかは知らないけれど、私がしたいのは露出だけじゃない。


元々芸能界を目指していた身だ。自分の存在で生み出せるコンテンツで、人に価値を提供すること――それが私のやりたいことである。



「お互い頑張ろうぜ、活動。今度は負けねえから」



無表情でそれだけ言った空斗は、前を歩く大学生の群れの元まで駆けていった。




後にyamatoの配信を聴くと、ファンへの態度が少し柔らかくなっていたし、作り物の甘い言葉だけを吐くこともなくなっていた。

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