第32話




『オマエ、俺に逆らったらどうなるか分かってんだろうな? お仕置きだ……ちゅっ……』




「どう?」


「どうって聞かれてもね。正直昼間一回聞いただけの男の声覚えてないのよ。比べられない」



yamatoの配信の録画を再生して玲美に聞かせるが、いまいちピンと来ない様子だった。


私が聞く限り絶対に今日の人はyamatoだったのに、玲美には伝わらないようで悲しかった。



yamatoの年齢は公表されていないが、まさか同学年だったとは……。


自分と同年代の男が自分よりも配信サイトで上を取っていることに焦りが生じる。


帰ったらすぐマイクをセットしよう。



「今日はもう帰るの?」


「うん。今夜は配信だし、その前に琉偉とのビデオ通話もあるし」



ノートパソコンをリュックに仕舞い始めた私に、玲美がyamatoの動画の再生を中止して聞いてくる。



「あんたら直接会ってるくせにまだそんなことしてんの?」


「あいつも一応ファンクラブの会員だから、特典はちゃんと付けないと。それにあいつの口癖、“俺はオタクの一人に過ぎないから……”だから。用もなしに直接会うことはあまりないよ」


「ここまで雪と親しくなれたら勘違いしちゃいそうなもんだけど。すごい良ファンよねえ」



私たちの関係性の在り方に違和感を覚えたらしい玲美が苦笑した。



「でも、城山琉偉はそれでいいのかしら。イマイチ何考えてるのか謎じゃない?」


「……そう?」


「本当にただのファンという立場でいいのか、雪のことが好きなのはファンとしてなのか女性としてなのか。心の底では雪とデキちゃいたいと思ってそうだけど、そこまで態度が頑ななら分からなくなってくるわよね。城山琉偉にとって雪ってどういう存在なのかしら」



確かに、本当にガチ恋しているオタクならどこかの段階で暴走しそうなものだけど、琉偉にはその気配が全くない。


琉偉にとって私は神聖な存在である、というのは何となく感じるけどね。恋と言っても、前にあいつ自身が言っていたように崇拝に近いというか。私と付き合いたいとか、そういう感情はないように見受けられる。



まぁ――あいつがどう思っていようが私はネットアイドルゆきを貫くだけだから、関係ないけど。




「じゃあ玲美、ありがとう。お邪魔しました。後で歌配信の練習動画送ってもいい?」


「おっけ、しばらく暇だからいつでも感想送るわ~」



別れのやり取りをしてから玲美の部屋を出た。



よし、帰ったら新企画の準備もある。切り替えていこう。

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