第33話




『え? ゆきちゃん、新規企画やるの?』



画面の向こうの琉偉の表情がパァッと明るくなる。


以前よりずっと顔色がよくなっているため、私が注意してからはきちんと食事や睡眠を取っていることが推測でき、それに少しほっとした。


さすがに目の前で気絶されたら心配せざるを得ない。あれ以降、琉偉があれ以上無理をしていないかは私も多少気になっていた。



「やるけど、まだ外部に漏らしちゃだめだから。養いプランの人にしか言ってないの」



琉偉がそれを聞いてあからさまに嬉しそうな表情をする。計算通りだ。養いプランの特別感を演出することができている。これで喜んでもっと私を養ってくれ。



『でも、新規企画ってしばらくやってなかったよね? 一体どんな……』


「……まあ、あんたには言ってもいいか」



私は別タブで開いているyamatoのページのURLをコピーし、琉偉とのチャットに貼り付けた。


他の養いプランの人にはまだ新規企画の内容までは伝えていないのだけれど、琉偉に関しては私への忠誠心から他にバラさないことが予想できる。



『……ゆきちゃん、これは?』


「見ての通り、音声配信。そいつが最近配信サイトで私を抜いて一位なの」



琉偉が黙り込む。


どうやらyamatoの音声を聞いているようだ。凄く真剣な表情で画面を見ている。


そして、一分ほど聴き込んだ後で、『凄いな』と呟いた。



「凄い?」


『俺も話題作りとしてアニメ映画で声を当てる仕事に起用されたことはあるんだけど、本気で練習してもここまでの完成度にはならなかったよ。ベテランの演技にはどうしても負ける出来だった。でもこのyamatoって奴は……個人で練習してるとは思えないほど演技がうまい。高い表現力もある』



ここまで真面目に考えてくれるとは思っていなかったため少し驚いた。琉偉は考える素振りをした後、控えめに聞いてくる。



『えっと……新企画はこういう、声優みたいなことがやりたいって解釈で合ってる?』


「いや、歌配信をやってみようと思ってて」


『ゆきちゃんが歌……!? すごい、聞きたい! 全力で応援するよ』


「って言ってもまだ形にはなってないんだけど。配信ランキングでyamatoに勝ちたくて、そのためには新しいことをしなきゃって……」



あれ、ここまでバラすつもりなかったのに結構喋っちゃった。なんか私、こいつのこと信用しすぎじゃない?



『ゆきちゃんらしい向上心、素敵だと思う。ゆきちゃんなら蹴落とせるよ』


「蹴落と……いや言葉荒いな」



普段柔らかい言葉遣いをする琉偉にしてはちょっとキツい言い方に違和感を覚えた。



『俺、ゆきちゃんにこれまで以上に課金アイテム投げるから。ゆきちゃんがyamatoのこと早く蹴落とせるように』



そりゃ琉偉が金に物言わせればランキングはどうにかなるかもしれないけど、何となく気が引けてしまう。


ただでさえいつも課金してくる琉偉だし、課金は無理のないペースで行ってほしい。あんまりお金かけられると今以上に執着されそうで怖いし。



というか。



「琉偉、なんか目が据わってない?」



さっきから琉偉の笑顔が笑顔じゃない。

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