第29話

私は改めてライブ配信アプリのランキングと睨めっこした。



yamato……Twitterのフォロワーは9万人か。私とほぼ同等!?


なるほど、毎日配信してるわけね……。


録画を視聴する限り毎日別の囁きシナリオの朗読である辺り、なかなか努力家であることが窺える。



歌ってみた動画やゲーム配信にも手を出してる。企画力だってある。声だけを武器にして戦っているなりに工夫しているのだ。



(……)



私も頑張らないと。




「玲美、やるよ。私も音声で勝負する。ネットアイドルゆきの新企画は、“音痴脱却”。毎日配信でオタクに曲をリクエストしてもらってそれを歌うの」


「雪の音痴はちょっとリクエスト歌ったくらいで治るもんでもないと思うんだけど」


「う、うるさいな……」


「そもそも雪の武器ってその可愛い見た目じゃない? 画面OFFにして戦うのってわざわざ自分の強みを隠す行為なわけで。やっぱりyamatoと張り合わなくてもって私は思うけど……。このyamatoって奴が顔を非公開にしてオタク受けしそうなイケメン二次元イラストを背景にしてるのも、自分の強みが声であって顔じゃないことを理解してるからでしょ」



玲美はこのようにいつも結構鋭い意見を言ってくるから、新企画をする時はたまに相談させてもらっている。


私、企画力はあんまりないしね……。料理配信も玲美のアイデアをかなり取り入れて、それなりに好評だった。



「じゃあ顔出しはして歌うとか」


「うーん、それだけじゃちょっと退屈かも。雪は歌がうまいわけじゃないから歌声目当てで来る人は少ないと思うのよ」



玲美、私の歌声に関して手厳しすぎない?



「やっぱり視覚的な需要がないとダメよね。ダンスしながら歌うとか、コスプレしながら歌うとか」


「コスプレか……。コスプレいいかも。衣装はいくつかあるし、日替わりで別のコスプレしてたらウケるかもしれない」



ただでさえ歌うの苦手なのに踊りながらはちょっとキツイ。


全身を映すとなると撮影の仕方も気軽な配信とは違ってくるし、その二択ならコスプレだろう。



――そうと決まれば、動き出すのはできるだけ早く、だ。



「私、マイク買いに行ってくる」



そう、実は私、ネットアイドルを名乗っているわりに録音はパソコンの内蔵マイクなのだ。


本格的に声を主体とした企画を始めるなら、ノイズを拾いにくいものを購入してもいいだろう。


コスプレ衣装はネットで買った方が種類が豊富だから後で探すけど、マイクに関しては詳しくない分色々調べなきゃいけないことが多そうだから、お店の人に聞いた方がきっと早い。


そう思ってパソコンを閉じて立ち上がると、玲美も「じゃあ私も行くー」と言って立ち上がった。



玲美と二人で久しぶりのお出かけである。

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