FILE3. シチュエーションボイス配信者
第28話
――――最近の私には目障りな人間がいる。
『可愛いね……素敵だよ……んっ、ちゅ……』
「……」
『キスしてあげるね。子猫ちゃん』
「…………」
『こーら。動いちゃだめだよ。ちゅっ……いたずらされたいの?』
思わずヘッドフォンをへし折りそうになった。
画面に映るコメント欄に流れていくのは、リスナーの【あっ♡】【すきです…】【ヤバい//////】などの喜びの声。
「何がいいわけ?」
音声だけのライブ配信アプリの一週間のランキング――1位がこの男、yamatoで、2位がこの私、ゆきだ。
一度も1位、譲ったことなかったのに……ッ!!
がっくりと床に崩れ落ちる私を、同じ部屋にいる玲美が呆れたような顔で見てきた。
「別に2位でも十分でしょ。そんなにその男を目の敵にしなくても……ジャンル違うんだしさぁ」
「それはそうだけど、顔出しもしてない声だけの奴に負けるのは癪」
「雪も歌ってみたとかやってみればいいんじゃないの?」
「私絶望的に歌下手だし」
「知ってる」
クスクスと笑う玲美。
『はぁ……っ好きだよ……!!』
ヘッドフォンからはyamatoの熱い吐息が漏れ聞こえてくる。
この配信者は1人でこんな音声を録音して楽しいのだろうか。
私が純粋な疑問を抱いている横で、玲美が漫画を読みながら聞いてくる。
「そういやあいつとはうまくいってんの?」
「あいつ?」
「城山琉偉。最近うち来てないけど」
「ああ……新しいドラマの撮影が入ったとかで凄く忙しそうで。それでも私の撮影を手伝いたいって言ってこの間家まで来たけど疲れが溜まってたのか玄関先で気絶したから仕事落ち着くまで来んなって追い返しといた」
「うわ、鬼……。優しく看病♡してあげればよかったじゃない。雪がしてあげればあいつ多分1週間は寝ずに働けるわよ」
「本当にできそうで怖いな……」
そう、実は琉偉とはしばらく会っていなかったりする。
あいつがいないと静かでいい。
SNSの私の呟きには全部グッドボタンを押してくるからそういう意味ではうるさいけど。
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