第23話

「因みにこいつ撮影と撮影の合間に来てるから、そろそろ退散」


「ごめんねゆきちゃん、もう少し時間取れればよかったんだけど……今度はいつにする?今度こそは絶対、」


「あーはいはい撮影遅れるでしょ。外に迎え来てるよ」



窓から見える琉偉のマネージャーの車を指差す。


琉偉もさすがに待たせるのは悪いと思ったのか、玲美に会釈してから「お邪魔しました」と家を出ていく。


嵐のようにやってきては出ていった琉偉を見ながら、玲美は開いた口が塞がらない様子だった。



「びっくりした?」


「したわよ、もちろん。……ていうかあいつ大丈夫なの?」


「信用できるかって意味なら、何とも言えないとしか言えないけど」


「いや、そうじゃなくて。今朝のネットニュース見てない?」


「え?」



思い当たることがないので聞き返すと、玲美がすかさずスマホを操作して画面を見せてくる。


玲美の長い爪には青いネイルが綺麗に施されていた。


しかしそれよりも、画面に映し出されたニュース記事の方が気になった。



【テレビ番組 “やってみYO!!” ヤラセ疑惑か?】




「何このふざけた番組名は……」


「知らないの?雪ったらほんとにテレビ観ないのね。夕方にやってる結構有名な人気番組よ。視聴率も高い。そして……」



玲美が画面をスクロールする。



【城山琉偉の走り高跳び記録について、専門家が“ありえない”と否定】



「城山琉偉が注目され始めたのも、この番組でゲストに一週間死ぬ気で走り高跳びをやらせようって企画がきっかけ」



あいつ俳優のくせに演技じゃなくてバラエティ番組で注目集めたのか。


何やってるんだ。



「テレビの番組ってヤラセだって分かってたうえで楽しむものじゃないの?」


「それがこの番組、“ヤラセは一切なし”が売りだからさ。番組始まる前のオープニングでも毎回“ヤラセなしです”ってわざわざ言っちゃってんの。それが城山琉偉の記録に関して専門家がこの筋肉量では云々とかケチつけ始めちゃったもんだから、今炎上しかけてて」



玲美が城山琉偉の公式Twitterも開いて見せてくれた。


最新ツイートのリプライには【嘘つき】【これも捏造ですか?】【売り方が汚い】【事務所の猛プッシュで何とか売れた俳優】【演技下手】と数々の罵倒が寄せられている。


……くだらな。



「そんなに凄い記録だったの?」


「そりゃあね。一週間で日本の走り高跳び選手の最高記録超えちゃったんだから」


「はぁ?」


「まぁ、他にも番組の企画内で色んな日本記録超えてるから、正直城山琉偉ってそういう売り方っていうか……ヤラセだと思って観るものだと私は思ってるけど。俳優なんか演技さえできてれば嘘ついてようがどんな売り方しようが関係ないし」



そういう扱いなんだ、城山琉偉って。



(でも……)



短期間で写真コンテストで優勝していた事実を思い出す。


あのトロフィーも偽物?





「それより雪、お腹空いてない?パン焼いたんだけど」



玲美がこの話題に飽きたようにスマホをしまい、リビングに通してくれる。


私はその後ろを付いていきながら少しだけ気がかりに思ったが、頭を横に振ってその考えを消した。




――まぁ、有名人である以上いちいち批判されるのは免れないし、炎上したところであいつはそんなに気にしないだろう。

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