第18話
「……っ帰るよ」
涙を服の袖で拭って、ルイと一緒に路地裏から抜けた。
雪が振り続ける中、沢山のカップルが相合い傘をして歩いている。
「ゆきちゃん、心配だからマンションまで送ってもいい?俺が言っても信用できないかもしれないけど、本当に送るだけだから……」
「どうせ住所知ってるんでしょ。あんたの傘奪って帰るのも申し訳ないし、いいよ」
それに、送らなくていいと言っても心配して後をつけてきそうだ。
ならもう一緒に帰った方がいい。
「っいいの?」
ルイが凄く嬉しそうに聞き返してくるもんだから、昔飼ってた犬みたいに見えて笑ってしまった。
「いいって言って………………、」
ふと、ルイの後ろに建つビルについている、大型ディスプレイに目がいった。
クソデカ画面に大きく映し出されたのは、酷く見覚えのある、というか今見ている顔。
――――テレビの中にルイが居る。
有名アーティストの曲が流れる中、もうすぐ上映される映画のインタビューを、関係者みたいな態度で受けている。
え?と思って、ルイと大型ディスプレイの中のルイを交互に何度も見た。
ルイはその視線の激しい移動に気付いたらしく、ビルの大型ディスプレイを振り返って「ああ、」と申し訳無さそうに笑う。
「ごめんねゆきちゃん。実はこのインタビューが長引いて、ゆきちゃんのクリスマスイベントに遅れちゃったんだ」
『琉偉さんは最近何か困難なことはありましたか?』
『うーん、モロッコでバラエティ番組の撮影があったんですけど、企画でシェフに弟子入りして15時間かけて500キロのヒトコブラクダを焼き上げたのはなかなか大変でしたね。でもこれで僕の料理の腕やスキルの向上に繋がるなら頑張ろうと思って本気でやりました』
『向上心旺盛ですね!でも料理の腕を上げたいならヒトコブラクダを焼き上げる前にやることがあると思いますよ』
テレビの中のルイが、誰もが惚れるであろう爽やかスマイルで、どこかで聞いたことのあるような話をしている。
『――――以上、今大人気の若手俳優、
私が幼い頃狂おしいほどに憧れた、演じて撮られる職業。
芸能界という輝く
オーディションに通らなくて、諦めて、それ以降コンプレックスからテレビを観ることをやめた私でも、名前くらいは聞いたことがある。
城山琉偉。
“やれば何でもできる”天才若手俳優。
顔だって雑誌やネットで見たことがあったはずなのに、どうして結び付けられなかったのか。
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