ストーカーVSストーカー
世の中には、人に根拠のない安心感を与えられる人間がいる。
そんなに深く関わっていないのに、“この人いい人なんだろうな”と思わせてしまえる人当たりの良さを持つ人。
多分ルイはそれだった。
「――助けて」
私が咄嗟に彼の服を握ってそう助けを求めたのも、ルイがそういう人間だったからだ。
ストーカーだったとしても、この人は私に害を及ぼさない。
私が直接こいつに説教できたのは私が強いからじゃなく――こいつは大丈夫だという根拠のない安心があったからだ。
事実、私がそう求めた途端ルイの表情は変わり、私を隠すように抱き締めた。
黒くて大きな傘を差していた彼は人混みに紛れるように私を移動させ、隠れるように路地裏へ連れ込む。
そして自分の傘を私に手渡すと、「俺の後ろに隠れてて」と言って追ってきた後輩の方を振り返った。
「――――おい。ゆきちゃんを追い掛け回すなってあの時も言ったよな?」
ルイから出たとは思えないくらい低い声。
「お前……毎度毎度邪魔しやがって。ゆきさん、こいつ誰ですか?どういうご関係ですか?」
しかし後輩の方も負けず劣らず、敵意を剥き出しにしてルイに突っかかる。
“あの時”? “毎度毎度”? どういう意味だろう。
「俺はゆきちゃんの――」
ルイが口を開いたので、どう自己紹介する気だろうと身構えた。
「ガチ恋オタクだ」
す、凄い弁えてた……。
こいつも自分が私の彼氏だとか言い出したらどうしようと思ったが、ルイの方はそこは弁えているようだ。
「ただのオタクの分際で、僕とゆきさんの邪魔をしないでもらっていいですか?僕たちは想い合っているんです。僕はゆきさんの彼氏です」
「そうなの? ゆきちゃん」
「断じて違うけど……」
「ゆきちゃんが違うって言ってる。じゃあ違う」
ルイが一瞬不安そうに私の方を振り向いたが、否定するとまた後輩の方に向き直った。
「うるさいですね! 僕は今日ゆきさんに告白されたんです!」
「どの発言をそう捉えたのか知らないけど、そういうつもりで好きって言ったわけじゃないから」
ルイの後ろにいる安心感からか、私もどうにか後輩に言い返すことができた。
「ゆきちゃんが嫌な思いするような推し方はやめろよ」
「……ッお前なんか……! ゆきさんの大学も本名も知らないくせに!」
「知ってるよ。大学も学科も専攻も知ってる。本名は沢辺雪。どの部活に所属してたかも、ネット上での活動のために部活を辞めたことも、親友の名前もよく行くカフェの名前も知ってる」
あれ?やっぱこいつもストーカーじゃね?
今繰り広げられているのが、ストーカーVSストーカーの戦いであることに今気付いてしまった。
これ、この二人に戦わせといて私さっさと逃げた方がいいんじゃ……と迷った刹那、
「お前がゆきちゃんに嫌なリプライ送ってたことも、知ってる」
ルイがはっきりとそう言った。
え?と思って後輩の方を見ると、後輩は黙り込んでしまう。
……否定しないの?
「ゆきちゃんに失礼なリプライ送ってる人を見たら、全員居場所を特定してるんだ。君は調べてるうちにゆきちゃんと同じ大学だって分かったから、要注意リストに入れてたんだけど……やっぱりゆきちゃんの後を付けてたし、いつもゆきちゃんのことを見てたし、盗撮もしてたよね」
盗撮、と聞いてゾッとした私を安心させるようにルイが付け足す。
「大丈夫だよ、ゆきちゃん。この間商店街でこいつを捕まえて、すぐに消させたから」
――商店街って、あの時?
すぐにいなくなったのはそういうこと?
ルイの胸倉を掴んで説教した日のことを思い出す。点と点が繋がったような心地だった。
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