第16話

「僕はゆきさんを心配してるんです!ゆきさんのためを思って……っ!」



後輩の声が一際デカくなった。



「キモいオジサンたちに下着姿を晒して生きていくより、僕と一緒になった方が幸せに決まってる!」



雪は止まない。


心が冷えていくのは、気温のせいか、こいつのせいか。




「……“私のため”?」



あまりにお粗末な言い分に、ふっと嘲ってしまった。


私はルイに傘を返し、ゆっくりと歩いて後輩に近付き、真っ直ぐにその瞳を見た。



「相手のためだって言えば何しても許されると思うなよ。自分の理想の幸せを、私の幸せだって言って押し付けてるだけだろうが」



私の顔があまりに笑っていないからか、後輩の顔がみるみるうちに青ざめていく。


今日はイベント中ずっと可愛い笑顔向けてあげてたもんね。



「“キモいオヤジに媚び売って金もらう人生、楽しいですか?”っだっけ」



以前この男から送られてきたアンチコメントを一字一句間違えず復唱してやる。



「――楽しいよ。私自分のこと見られるの好きだもん。そのために体型維持頑張ってるし。好きなことしてお金もらえるって厚生労働省もびっくりの理想の働き方じゃない?」



にこりと笑って、後輩に持っていた鞄を投げつけた。


本当は平手打ちしてやりたかったけど触れるのが嫌なので鞄での攻撃にした。


後輩は余程驚いたのか、私に困惑した目を向ける。




「お前に追い回されて怖い思いした数週間分、これでチャラにしてあげる。


じゃあね、キモオタくん。これ以上私に付き纏ったらこのバカに協力してもらってあんたのこと晒すから」




淡々とそう伝えると、その言葉が聞いたのか、後輩は泣きそうな顔をしながら走って路地裏から出ていってしまった。



ハァ、と溜め息を吐いて、地面に落ちた鞄を拾い上げる。


地面が濡れているせいで鞄も汚れた。




……イベントに来てくれるほど私のことが好きなオタクでも、ああいうのが混ざっちゃうわけね。


もう何も信じられない。

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