後輩




 顔を上げる。


 そこに透明の傘を差して立っていたのは思った通り、今日イベントに参加してくれていた後輩だった。


 大学生らしく明るく染めた髪に、緩いパーマがかかっている。

 大学に入ってから一度も髪を染めていない私とは正反対だと思った。



「……髪」

「え?」

「髪、傷んでるね」



 近付いてきた後輩の髪に触れる。おそらくヘアカラーやパーマを重ねているのだろう。

 おすすめのトリートメントでも教えてやろうかな、なんて思いながら手を離すと、後輩の顔がまた真っ赤になっていた。


 ……あ、しまった。別に今のは計算じゃなかったんだけど。



「ごめん、勝手に触って」

「いえ……。いいですよ。付き合ってるんですし、僕はいくら触られても」

「なら良かっ………………え?」



 聞き間違いだろうか。思わず顔を見つめるが、後輩は至って真剣な顔をしている。



「傘ないなら家まで送ります」

「いや、……いいよ。傘くらいコンビニで買えるし」

「遠慮しないでください。ゆきさんの新しい家って駅の近くですよね?」



 今度は聞き間違いじゃないと確かに分かる。実際、私の新しいマンションは駅の近くだ。


 乾いた笑いが漏れた。



「そんな話、今日のイベントでしたっけ?」



 一応確認するが、後輩は薄ら笑いを浮かべるだけだった。


 ヤバい。焦る。なんか答えろよ。



「……因みに、何でこんなところにいるの?」

「どうしたんですか、ゆきさん。顔強張ってますよ」

「イベント終わって一時間以上経つよね。何してたの? 私のこと待ってた?」

「もちろん、そうですよ」



 ――――写真じゃない。


 ストーカーは私の写真から場所を特定したわけじゃない。



「僕、彼氏なんだから当然でしょう?」



 同じ大学だから、後をつければ分かるのだ。






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