直接対決
私はまだまだ楽観視していた。
もしストーカーがいたとしてもそのうち勝手にいなくなるだろうと。
しかしそれから一週間ずっと、妙に視線を感じる日々が続いた。
玲美と一緒に通学している時、帰っている時、出かけている時、大学に居る時ですら、視線を感じる。
玲美が苦しんでいた理由が分かった。
もちろん私の考えすぎの可能性だってある。感じるのは視線という不確かなもの。でも、私の感覚では確かにいるのだ。私を見ている人物が。
それはなかなかのストレスだった。
その疑念が確信に変わったのは、商店街で買い物中に玲美が、
「あの人ずっと付いてきてない?」
と私に耳打ちした時だった。
「どの人?」
小声で聞き返す。
「後ろ。グラサンかけてる人」
「……!」
グラサン、と聞けば、思い当たるのは一人だ。
芸能人のお忍びか? と思うくらい、不自然すぎるほどデカめのサングラスをかけていたあの男。
私はゆっくりと振り向き、他店の物陰にいるその男を視界に捉えて確信を持った。
「ちょっと、雪!?」
私は玲美の制止も振り切ってその男にズカズカと詰め寄り、胸倉を掴んで壁に叩きつける。
そこに居たのは――――……ルイだ。
この不必要に高い身長で分からないはずがない。
「……やっぱりあんただったの」
全身黒ずくめ。よくもまぁ、こんなに如何にもな格好をしているものだ。
「何のつもり?人のことずっと付け回して。こういうのストーカーって言うんだけど」
「えっ、ち、違……! ゆきちゃん違う、」
「何が違うの。これ以上付き纏うなら警察呼ぶから。ファンクラブも退会させる。二度と私に近付かないで」
冷たく吐き捨てると、ルイは酷く傷付いたような顔をして、何も言わなくなった。
勝ったと思ってふんと鼻をならした私は、ルイから手を離して玲美の方へ戻る。
ほらね。ストーカーなんて大したことない。私一人でも十分対処できてしまった。
「ちょっと、何やってんのよ雪……!ストーカー相手に直接喧嘩売るなんて危険すぎる!」
「別に、あいつ一応知ってたし」
「何も分かってないわね!?ああいう好意拗らせたタイプは逆上することもあって……って、あれ?」
私の肩を掴んで激しく揺らした玲美は、次に私の背後のルイに目をやろうとして驚いたように目を見開く。
ん? と思って私も振り返るが、そこにルイはもういなかった。
「逃げ足の速い奴ね……」
ぐぬぬ、と玲美が悔しがっているが、私に特に思うところはなかった。
不思議とルイに対しての怒りの感情は芽生えてこない。
怒り、というよりこれは、
(……失望)
たった数度ビデオ通話しただけの関係。
私のファンクラブの最上級会員、【養いプラン】のルイ。
私を好きだと言ったあの笑顔と重い気持ちだけは純粋なものだと思っていたのに。
いやまぁ、私で抜いてる時点でって感じだし、純粋さを勝手に期待して何か求めて失望するのも失礼か。
相手はただのオタクだし。お金以外を求めちゃいけない。
「帰ろ。玲美」
何はともあれ嫌がらせをしてきた人物は特定したのだから、ストーカー問題は解決だ。これ以上何かしてきたら警察に突き出せばいい。
新しいマンションの入居予定日を早めてもいいだろう。
これ以上玲美のご家族に迷惑もかけられない。
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