友達って誰?
*
それから数日が過ぎ、12月に入った。
実家暮らしの玲美は快く私を家に泊めてくれて、撮影にも協力してくれた。今度は窓の外とか映らないように徹底した写真を撮った。
玲美のご両親も事情を説明すると優しくしてくれ、元気にやっていけている。
『あのねゆきちゃん!俺、クリスマスイベントのチケット取れたよ!』
玲美に借りた使われていない部屋でビデオ通話を繋げた瞬間、嬉しそうなルイの顔がドアップになっていてビビった。
クリスマスイベントとは、今月24日に予定している、東京のカフェを借りてサンタコスしてファンと撮影会をするイベントのことだ。
3年もこの活動をやっているが、今年のクリスマスは初のファンとの対面イベントとなる。
『あれって結構倍率高いんでしょ? やっぱりゆきちゃんと俺は運命で結ばれてるんだね』
「いや、そんなことはないと思うけど」
いかん、思わず本音が。
貢ぎ続けてもらえるよう、ビデオ通話ではデレるって決めてるのに。
運命を否定したにも関わらず嬉しそうに顔を綻ばせるルイ。
まあ、私は日頃から毒舌キャラだし、多少キツいことを言われても耐えられるファンしかいないのは幸いだ。
『俺ね、そんな風に、俺より年下なのに他人に媚びてなくて言いたいことはズバズバ言える芯の強さも持ってるゆきちゃんが憧れで、ゆきちゃんのファンになってからずっと、いつもゆきちゃんを見て勇気をもらってたんだよ。特に、ゆきちゃんみたいなファンからの支援を必要とする活動者にとっては尚更、ファンに媚びないってなかなかできることじゃないと思う』
……ふうん?
「私の胸とかお尻とかが好きなわけじゃないんだ?」
「……や、胸とかお尻も好き……」
好きなのかよ。台無しだよ。
『俺、他人の目気にしちゃってたから。ゆきちゃんみたいに何言われても堂々として、気にせず俺なりに仕事してたらどんどん成績が上がって尊敬されるようになったし、怖い先輩に嫌なこと言われても俺には帰ったらゆきちゃんが居るんだぞ!って思えるようになった』
「“帰ったらゆきちゃんが居る”……?」
その言葉の不可解さに、自分の眉がぴくりと動くのを感じた。帰ったらゆきちゃんの投稿が見れるという意味だろうか。
『いつもイマジナリーゆきちゃんと晩ごはん作ってるんだ。ゆきちゃんのお料理配信の録画を再生しながら、印刷したゆきちゃんの写真を写真立てに入れて、その前で料理してる』
「きもいな……」
いかん、思わずまた本音が。
『キモいのは知ってるよ。でも俺の生き甲斐だから』
個人利用の範囲なら保存していいって書いてるし、何に使ってくれても別にいいんだけど、それを本人に言うのがキモいわ。
『ゆきちゃんが配信で難しい料理作れる人すごいって言ってたから、この間モロッコのシェフにお願いしてラクダの丸焼きの手伝いをさせてもらったよ』
ルイが画面に映した写真を見ると、ラクダっぽい動物のクソデカ丸焼きの横に立つシェフの隣に、ルイが立っている写真だった。
さすがに加工か? とも思ってじっと見るが、加工にしてもうますぎる。しかもここモロッコじゃね?
「す、すごいね……」と若干引き気味で褒めると、ルイは心底嬉しそうに微笑んだ。女子なら誰もが落ちるであろう悩殺スマイルだ。
でもやってることが意味不明すぎて全くときめけない。
『ゆきちゃんは最近なにかあった?』
モロッコでラクダを丸焼きにした話する前に聞けよそれ。今何話しても話題として絶対負けるよ。
『そういえば、部屋模様替えしたの? そこゆきちゃんの部屋じゃないよね』
よく気付いたな、とびっくりした。
確かにいつもと背景は違うけど。
「友達の家にいるんだよね。色々あって」
『――――……“友達”?』
しまった。
ルイの声音がワントーン下がった気がして、画面越しにその顔色を窺う。
ルイの表情からは先程までの柔らかい笑顔が剥がれ落ちてしまっている。
「いや、女の子のね。大学の同期」
『……ああ、なんだ、そうなんだ』
こ、こえええええ。さっき一瞬殺人鬼の目してたよコイツ。
発言には気を付けないと。ガチ恋オタクは繊細だし。
「その友達に撮影協力してもらえる状況になって、やっぱり自撮りには限界があるなと思ったかな」
『……自撮り、やめるの?生きていけない』
「いや、やめるわけじゃないんだけど。他の人に撮ってもらった方がいい場合もやっぱりあるよねっていう。グラビアアイドルの動画版とか観てても思うんだけど、ただの自撮りよりカメラワークがあった方がセクシーさは上がるよ。カメラマンを雇ったらレベルアップには繋がるんじゃないかなとか考える」
『……ふうん』
ルイが妙な反応をしたので気になったが、その後その話は流れ、他愛も無い話が続いた。
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