第7話





その翌日は、たまたまルイとの二度目のビデオ通話の日だった。



『久しぶり。ゆきちゃん、元気にしてた?』


「うん、してた。ありがとうね」



パソコン越しだが、目の中にハートマークが見えそうなくらい“恋してる男”の目をしてるルイに苦笑いを返す。


今日は珍しくマスクもサングラスもしてないんだな。



ていうかビデオ通話二度目にして何だその挨拶、友達か? 敬語使え敬語。


まあ、沢山お金くれてるから少しは可愛く愛想よく対応してあげなきゃね……と思った矢先。



『今月もいっぱい、えっちな自撮りありがとうね』



物凄くストレートな御礼を伝えられた。


いや、お前のためだけに撮ってるわけじゃねえけどな。



『ツインテール地雷風メイク可愛かった。あの黒の下着新しいやつだよね?あとあと、ピンクのミニスカートも……。もう冬だし足冷やさないようにね。そうだ、俺は牛さんのコスプレが今月で一番好きかな。あーでも制服をギリギリまで脱いでいく写真集も良かった』



こんな爽やかな見た目の男が私の写真集を見ているのだから、人間見た目では判断できない。



『あと、あの……筋トレしてる時の写真なんだけどさ、トレーナーさんと一緒に映ってたじゃん。大丈夫だった?何もされなかった?』


「いや、何もされないよ。撮影に協力してくれた優しいパーソナルトレーナーさんだよ」


『ゆきちゃんがあんな格好で筋トレしてたら俺だったら襲っちゃうよ……。ああもう、ゆきちゃんは無防備すぎる!』



お前がパーソナルトレーナーじゃなくてよかったよ。


いつもならアイドルスマイルでファンを転がすところなのに、苦笑いを返すことしかできない。



すると、前触れもなく急にイヤホンの向こうから音楽が流れ始める。



「……えっ?」


『ゆきちゃん、Butterだよ!』



急にカメラの位置が変わり、ルイが遠ざかったと思えば、ルイはBTSのButterを踊り始めた。


絶対ダンス初心者じゃないだろという完璧な動きだった。



『――どうだった? 前回の通話でゆきちゃんが俺が踊ってそうって言ったから練習したんだ』


「……まあ、上出来じゃない?」



前回のビデオ通話で初めて対面した時、マスクをしているものの私が好きな韓流アイドル風の見た目をしたお洒落な爽やかイケメンなのにびっくりしてつい「BTSのButterとか踊れる?」って聞いてしまったのを思い出す。


しかし、私のちょっとした発言から“次の通話までにマスターしよう!”と思って練習する行動力は怖い。



更に、私が褒めたことでルイは凄く嬉しそうな顔をする。


来月も私のちょっとした発言から何か技能を身に付けるのでは……と不安に思う。




一時間が終わる頃には何故か疲れ果てている自分がいた。ルイからのラブがデカすぎるのだ。


ビデオ通話中、終始ご主人さまに餌をもらえた犬みたいな反応をされてかなり気を遣った。あいつ今後私がもし活動停止とかしたら生きていけるのかな……。



TwitterのDMに、ルイから【今日もありがとう!】に続いて読む気も起きない長文メッセージが来ている。




 いつも本当にありがとう。


 重いかもしれないけど、ゆきちゃんの写真や動画や配信やビデオ通話が俺の生き甲斐なんだ。


 生きててくれてありがとう。


 愛してるよ。


 そういえば、最近ゆきちゃんが付けてるピアスって




うーん、長いな。


縦読みかな?なんて思いながらざっと目を通してから何となくルイのアカウントを開くと、リツイートもファボも私のツイートで埋め尽くされていた。


呟いている内容も私に関することばかりで、たまに病んでいるかと思えば、私が他の男のリプライに反応しているのを見ての愚痴ツイートだったりする。


私のエロ自撮りに高評価を付けてくるのは大部分が私じゃなくそういう自撮りが好きな男で、大抵他のセクシーアカウントの自撮りもリツイートしてるしコメント付けてる。


しかしこのルイだけは――他のセクシーアカウントをフォローしていないし、フォローしているのは私と、サントリーの公式アカウントだけだ。




さらに、アカウントの自己紹介欄に書いてある一言が、



――――“ゆきちゃんしか好きじゃない”。




(…………。)



愛、重いな。

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