第92話

中学に入って、何となく、何に対してもやる気が起きなくなった。


家にいれば、突然感情的になる母親。


そして、突然人が変わったように優しくなる母親。


引っ越す前はいつも綺麗にしていたあの人の髪も、メイクも、服装も…辞めてしまったのはいつからだったか。


少しずつ変わっていくあの人の変化に、気持ちが追いつかなくなった。


家にいるのが段々とわずらわしくなって


外で同じ中学の奴らと過ごす時間が増えた。


「弘人ーっ♪」


『おう。』


「ねぇ今日学校来てなかったの?」


『いや、屋上でさぼってた。』


「なんだ、お前屋上いたのかよー。連絡くらい返せよな」


『悪い。』


缶チューハイを飲むそいつらの隣に座ると


バイブが鳴って、スマホの画面に表示された、達也からのメッセージ。


“俺、優と付き合うことになった。”


『…』


「弘人?どしたの?」


『…いや。』


スマホの画面を消して、ズボンのポケットに押し込んだ。


春になって、新入生の入学式…なんて退屈なイベントにも興味を持てなくて


一人屋上で寝転んで空を見た。


こうやって、なんとなく


なんとなく過ぎていく、退屈な日常。


俺にはもう


なにも残っていないと思った。

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