第89話

背中を向けた弘人は


保健室から出て行った


『…なに…それ。』


なにそれ…


なんだ…


《ただ、優のことが好きだった。》


『…嘘つき。』


また、私だけが何も知らなかったの…


だけど


嘘つきなのは


『…』


私も同じだった。




ガラッ


「優ーっ」


保健室のドライヤーを借りて、髪を乾かして


一限目が終わった教室に戻ると、心配そうに走り寄る美羽


その後ろを七美もついて来る


「大丈夫っ?急に飛び出してったから焦ったよー」


『ごめん。』


朝、弘人と話をしてたその子が私を睨む


『…』


弘人、帰ったのかな。


「てかみんなビックリしてたよ、佐野と幼馴染だって。なんで黙ってたの?」


『ごめん…なんとなく言うタイミング逃しちゃった。』


「まぁいいんだけどさー」


「それ聞いて、カラオケで優が頼むドリンク当てたのも納得いったわ笑」


『あ…うん。』


「てか雨すごいね、体育祭の日降らなきゃいいけど」


『ほんとだね』


放課後


七美と美羽にスタバに誘われた


達也とどんな顔して会えばいいかわからなかったから、都合が良かった。


雨は、相変わらず止まないまま降り続けて



そうやって


全部雨で流せたらいいのに


忘れたいこと、全部


流してしまえたらいいのに




そう、思った。

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