第88話

『雨、止まないね。』


私も弘人の隣、窓から外を見る。


弘人の濡れた髪


少し肌が透けた制服のシャツ


骨張った手


あの頃とは違う


男の人になった弘人


『弘人は』


気付かないフリしてた


『横浜に行ってから、辛いことばかりだった?』


気付いてはいけないと…


「…は?」


驚いたように私を見下ろした弘人


『…』


「…良いことも、少しは有ったよ。」


私は


「朱里がいてくれたからな。」


《お前のこと、本当に大好きだったよ。》


『…』


その子に嫉妬してる…


もういない


その子に…


「なんで?」


『…別に。』


「お前は?」


見つめられて


「俺がいなくて平気だった?」


その顔があまりに優しくて


『っ…』


思わず目を逸らす…


『…』


「…そこは平気だって答えろよ。」


『…』


「お前、俺のこと好きなの?」


『っ…』


「…」


『…好きじゃない。』


「…笑」


胸の奥がチクリと痛む。


「あの時あいつに」


そんなにも優しい顔をして


「優を頼む、なんて」


私の髪を


「言わなきゃよかった。」


そっと撫でる


『…ぇ…』

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