第81話

夕食を食べて


お風呂に入って


達也のTシャツを借りて


やっぱり大きいな、なんて達也は笑った


布団の中


達也に抱きしめられて目を閉じる


こんな日常が


ずっと続けばいいと思った


この幸せが


消えてしまわないで欲しいと願った


「おはよ。」


『…おはよ』


朝、コーヒーの香りで目を覚ます


「ココア飲む?」


『うん、ありがと。』


手渡されたマグカップ


入れてくれたココアの湯気が


ふわふわと部屋の空気に溶け込む


『…』


夢を見た


小学一年の、夏休みの前日


机の中のものを全部持って帰るように担任に言われて


ランドセルと手さげ袋いっぱいに詰め込んで、学校からの帰り道


なんとか辿り着いたマンションの前に座り込んで


立ち上がれなくなって、泣きながら大声で母親を呼んでいた私に


声をかけてくれたのは弘人だった


「優?」


『…弘人っ』


「どうしたの?こんなところで」


重くてもう持てないと言った私のランドセルを


弘人は私の家まで運んでくれた


弘人だってランドセルいっぱいに教科書を入れていたのに


「あら弘人くんっ優のランドセル運んでくれたの?ごめんねー重かったでしょ?」


「別に、全然っ」


「本当にありがとうねー、もう何泣いてるの優っ」


あの日


私は弘人のことを好きになった


いつも優しかった弘人のことを


本当に


大好きになった

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