夢。

第79話

公園からの帰り道


ずっと握られていた手


当たり前にあなたの手を握れるようになれたことが嬉しかった


当たり前に隣にいられる関係が心地良かった


いつも私の側にいてくれた達也


だけど今は


《同情なんかじゃない。あいつは本気でお前のことを心配してた。俺もお前のことが…》


まるであなたが


《だったらなんで言わなかった?中3の春、朱里が玲奈にされたこと。》


知らない人みたい…。


マンションの前で立ち止まる


「うち来る?」


そう言った達也の顔が寂しそうだったから


『うん。』


一人にしてはいけないと思った。


マンションのエレベーターに乗り込み、6階のボタンを押す


「…」


いつもはなんて事なかった沈黙が


『…』


今は辛い。


ポケットから出した鍵の音が、エレベーターの中の沈黙をかき消す


扉が開き、少し先を歩く達也の後ろ姿


達也、また身長伸びたなぁ。


公園で初めて出会った頃は、私の方が少しだけ身長が高かった


小学校に入って、あっという間に越されちゃったけど。


あの頃


友達と喧嘩をして怪我をしたり


いつも悪さをして先生に怒られるのは達也の方だった


そんな達也を見て、弘人はいつも心配してたっけ


そんなの、今では嘘みたい。

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