第76話

『先に帰ってるね。』


ベンチから立ち上がる私を


「なんで?ここにいればいいじゃん。」


真っ直ぐに見つめる


『…』


「おい、弘人。」


「こいつに聞かれちゃマズいことでもあんの?」


「…」


「話って、朱里のことだろ。」


『…』


朱里…


「お前、何度かあいつと会ってたよな。俺の知らねぇところで。」


そうやって弘人は


「…あぁ、会ってた。」


鋭い瞳で達也を見る


『…』


「母親死んで、親戚んとこ預けられて、落ちぶれてく俺を見て惨めだとでも思ってたか。」


「っ…」


「俺に同情しながら、自分の環境が恵まれてることに安心してたんだろ、お前ら。」


ねぇ


「朱里が死んだあの日」


弘人…


「あの日もお前ら、連絡取り合ってたんだよな。」


「…何度も言っただろ。お前らが別れた後も、お前とのことでずっと相談乗ってたって」


「俺は嫌だったんだよっ!」


「っ…」


「お前には何でも話すあいつが。」


「…」


「なんも言わずに俺から離れて行ったあいつが」


それは


「俺は憎かった。」


全身で


「お前にわかるかよ…」


その子のことを


「あいつの最後の言葉を、お前から聞かされた俺の気持ち。」


大好きだって言ってるんだよ…


『…』

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