第75話

「優…」


もしも、あの日


秋祭りのあの日


もしも弘人と会えていたなら


私はきっと


達也を選ばなかった


『…』


達也のことが愛しいなんて


こんな気持ちになる日は


きっと来なかった


そんなことは


痛いほど、自分が一番


よくわかっているから


それが


苦しかった…


達也の手にそっと触れる


あの日


達也と付き合うと決めたあの日


この手に


触れたいと思ったこと


無かったことになんてしたくない…


『…』


なのに…


《優、佐野のこと好きなの?》


『っ…』


「…」


そっと、私の手を握り返して


私の頬に触れて


そんなに愛しそうに見つめて


キスをする…


抱きしめられた達也の腕の中で


思ったのは…



「おい」


『っ…』



達也から体を離し


振り向くと


弘人がいた


「お前が話あるっつーから来たのに、わざわざ見せつけるために呼び出したのかよ」


「ちげーよ…さっき偶然優が通りかかっただけだ。」


話って、なんの…


『…』


私が踏み込めない何かが


2人の間にはあって


それがなんなのか


《…あいつの元カノのこと、なんか聞いてる?》


それを聞くことが


できなくて…


《そいつが死ぬ直前に連絡取ってたの、俺なんだ。》


『…』


なんか


悲しいね…


あの頃は


いつも一緒だった


あんなに仲が良かった


この公園で


また、こうやって


3人で会えたのに


もう


あの頃のようには


いられないなんて…

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