傷。

第73話

「弘人ーっ、そろそろ帰りなさーい」


「わかってるよー」


公園で、私と達也とサッカーボールで遊んでいた弘人に


前を通りかかった、買い物袋を下げた弘人のお母さんが声をかけた


「うるっさいなー。」


面倒臭そうに、恥ずかしそうにそう言った弘人が


地面に転がるサッカーボールを拾い上げた


「私たちもそろそろ帰ろっか」


「そうだな、じゃあ弘人また明日なっ」


「あぁ」


「二人とも気を付けて帰ってねー」


「はーい、さよなら!」


「お腹すいたでしょ、今日は弘人の好きな唐揚げだよ」


「友達といる時に声かけないでって何度も言ったじゃんっ」


「はいはい、ごめんねー笑」


あの頃


弘人の隣で


あんなに楽しそうに


あんなに優しく笑ったおばさんは


もういない


弘人のお母さんは


弘人を置いていなくなった


《お前にはわかんねぇだろ。》


弘人に


《お前のせいだと言い残して死んでいった人間を目の前にして》


あんなにも大きな傷を残して


《残された人間が何を思うか。》


この世界から消えてしまった

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