第72話

『達也、最近私のこと避けてる。』


「は?避けてねぇよ」


『避けてるよっ』


「なんでそうなるんだよ、朝だって一緒に行ってんじゃん」


『朝だけじゃんっ』


「はぁ…」


小さくため息をついた達也


俯いて


しばらく考え込むような


そんな表情


『…ごめん。』


言い合いがしたいわけじゃないんだ


「…お前のことよくわかんねぇ。」


喧嘩がしたいわけじゃないんだ


『なんでそんなこと言うの?』


「俺ら、あんまり一緒にいない方がいいと思う。」


『なんで…』


「俺とお前が付き合ってるって噂。」


『ぇ…』


「最近結構聞かれること増えたし。お前困んだろ?」


『なんで、困んないよっ』


「お前さぁ」


小さく頭をかいて


「俺が告白したこと忘れてねぇ?」


困ったように私を見た


「俺は嫌なんだよ。そういう噂にどう反応していいかわかんねぇし。」


『…』


「答えももらえねぇまま、そういう噂に何でもないフリして一緒にいるのも正直しんどい。」


『…』


「勝手かもしれねぇけどさ。」


『…だったら…』


「…」


『だったら本当にしちゃえばいいよ』


「は?」


『付き合っちゃえばいいよ』


「…あのなぁ。」


『…』


「そういうことじゃねぇじゃん」


『そういうことって何?』


「…お前って勢いで付き合うとか言えるやつだっけ?違うだろ。」


『そうだよ。』


「…」


『勢いでそういうこと出来ないって、達也が一番よく知ってるでしょ。』


あの日の


『達也が好き…。』


達也の照れ臭そうに小さく笑った顔は


私だけが知っている


私だけのもの…


私の腕を掴んで


引き寄せて


触れるだけのキスをした


もうすぐ夏に移り変わる


中学一年生の、春。



「今日、早めに部活終わらせるから待ってて。」


『うんっ♪』



あの日、私は



達也の彼女になった

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