第66話

「…」


そっと離された身体


掴まれていた腕が痛い


起き上がれずに


そのまま止まらない涙を必死に拭った


「小6の秋…」


俯いた弘人は


「好きだった女は約束の場所に来なかった。」


そう、ぽつりと呟いて


『…』


部屋を出て行った…


『…っ…』


小6の秋


『…泣』


約束の場所…


《優、来年の秋祭りは一緒に行こうね》


あの日


達也に告白されたあの日


弘人は


『…弘人…泣』


あの場所にいたの…?






カラオケの帰り道


私と達也の足音


切れかけの街灯が


チカチカと音を立てて点灯してる


「久々にこんな時間まで歌ったわ」


『うん』


「七美ちゃんて、ほんとカラオケ好きなんだな笑」


『うん…』


「優?」


『…』


俯いたまま歩く私の腕を


そっと引き寄せる達也


「あぶねぇ。車通ってるから。」


ねぇ


《あの日》


本当は


《なんで来なかったの?》


なんとなく


『…』


予感していた…


私と弘人の記憶の中に


少しの小さなズレが有ったから…


それはきっと


《…最低なのは、俺だよ。》


きっと…

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