第65話

「教えてやるよ。」


強く掴まれた腕が


『…』


痛い


「中2の冬、俺の母親は自殺した。」


『っ』


「夜中に睡眠薬大量に飲んで、朝には冷たくなってた。」


そんなふうに鋭い目をして


「死ぬ間際…俺に何て言ったと思う?」


私を見下ろした弘人が


「俺を横浜に連れて来なきゃ良かったって言ったんだよ、あいつ。」


なぜだか


「俺に全部背負わせて死んでったんだよ。ずるいだろ。」


泣いてるように見えた


『…』


まるで用意されていたセリフを吐き出すように


「お前にはわかんねぇだろ。」


ただ、淡々たんたん


「お前のせいだと言い残して死んでいった人間を目の前にして」


感情のない


「残された人間が何を思うか。」


弘人の言葉…


『…泣』


静かに頬にこぼれ落ちた涙を


あなたは


「知りたかったんだろ?俺のこと。」


てのひらで包み込む…


「それ聞いて、お前に何ができんの?」


『…』


「お前は俺に、何してくれんの?」


『…っ泣』

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