第58話

「おはーっ優♪」


『おはよ』


教室に入ると


クラスの男子数人とふざけ合って笑う


弘人の姿


こうやってると


大事な人を失って


大きな傷を抱えているなんて


まるで嘘みたいで…


神様は不公平だ


まだ幼かった弘人を押し潰した


あまりに重すぎる現実


それはあまりに残酷で


弘人がそんなにも傷付かなければいけない理由は


どこにもなかった



『…』


「優、今日は多田と一緒じゃないの?」


『ぁ…うん。』


「なんかあった?」


『なにもないよ。』


「ならいいんだけどさ。最近元気ないこと増えたよ、あんた。」


「悩んでることがあるなら、ちゃんと言ってよ?」


『…』


「うちら、いつでも話聞くからさ」


『ありがと…七美、美羽。』


「よし、今日は放課後カラオケで思いっきり発散しよー♪」


『うんっ』



ガラッ



教室の扉が開き


振り向くと、達也がいた。



「お前さぁ」



小さく息を整える達也は


静かに


私の手を握りしめる



『…』


「先に行くならそう言え。心配すんだろ。」


『…ごめんなさい。』


「なんだーラブラブじゃん♪」



七美がそう言って笑う



「多田ー、人の教室来てイチャついてんじゃねー!」



周りの声なんて聞こえてないみたいに


達也は真っ直ぐに



そうやって





私を見つめてた

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