第47話

『…わかった。』


弘人を置いて屋上を出た


走って階段を駆け下りて


運動靴に履き替えてグラウンドに出る


「どこ行ってたんだー佐々木!」


『すいませーんっ』


「さっさと並べ!」


『はーい』


「優遅すぎー!」


『ごめんごめんっ』


あの頃のことは


もう、どうだっていいと言った弘人


あの頃のことを


どうでもいいなんて思えずにいた私


新しい環境の中で


前に進んでた弘人


私だけが


あの頃のまま


取り残されてる



『私らの息ぴったりだねー』


「けど本番転ばないか心配ーっ」


『大丈夫だって♪』



弘人のお母さんが亡くなった理由も


弘人の元カノが亡くなった理由も


なにも聞けなかった


聞いてはいけない気がした


私は弘人のこと


本当に


何も知らない


更衣室で制服に着替えて教室に向かう途中


廊下の隅で


女の子と話す弘人を見た


悲しそうな顔をするその子に


ニカっと笑った弘人は


その子の髪をくしゃくしゃっと撫でた


「なになに、告白かなっ」


「隣のクラスの子だね」


『あんまジロジロ見ないのー、行くよ』


私以外の子には


あんなに無邪気に


笑えるんじゃん


『…』

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