観覧車。

第37話

お墓参りの後


お昼に入ったレストラン


オレンジジュースをストローでかき混ぜる


カラカラと


グラスの中で氷の音が鳴る


相変わらず達也は


コーヒーばかり


《一周忌だったから》


『…』


「ごめんな、優。」


『え?』


「本当は、弘人と来たかったよな。」


『…そんなことない。』


窓際の席


車が行き交う景色を達也は眺めながら


私を見ない


『来れて嬉しかったよ。』


「お待たせいたしました」


注文した料理がテーブルに運ばれてくる


『食べよう、達也。』


達也はいつも


悪くないのにごめんと言う


達也が謝るたび


私の胸はチクリと痛む


そして、その度に


この人を裏切ってはいけないと


思う


「観覧車でも乗ってく?」


いつもの笑顔を私に向けた達也


『乗りたいっ』


この笑顔を


壊してはいけないと…


お店を出て


手を繋いで


みなとみらいに向かう


温かい


達也の手


『達也』


「ん?」


『好きだよ』


「知ってる。」


『…笑』


こんな関係が


いつまでも続くと


信じてた


いつも側にいてくれた


弘人を忘れられずにいた私を


それでもいいと


抱きしめてくれた


弘人に会いたいと願いながら


達也の隣で


当たり前に存在するあなたに安心していた


私はずるい


どんなに最低でも


達也は私から


離れていかないと


たかくくっていた

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