第15話

「優?おいっ」



『っ…』


私の前に駆け寄り


肩に触れて私を見つめる達也


『…』


扉に向かい


歩いていく弘人の背中


「おい、弘人待てよ。まだ話っ」


足を止め


「お前と話すことなんてねぇよ。」


振り向いた弘人は


色をなくしたような瞳で


私たちを見た


『…』


弘人のいなくなった屋上


「二人で…なにやってたの。」


静かで


穏やかな達也の声


『…なにもしてない…』


「…優…頼むから、」


ギュッ…


「…」


『…っ…』


すがるように抱きついた私を


ただ優しく抱きしめてくれる


あなたの優しさが


愛しかった


「…昨日の話しようか。」


《お前のクラスに転校生来たんだよな。今日、その話しようと思って誘った。》


『…』


「…ごめんな。俺、弘人が引っ越した後も、ずっと連絡とってた。」


『っ…』


「弘人さ、お前のこと好きだったじゃん…」


こんなにも簡単に


「…お前も、弘人のことが好きだっただろ。」


あの頃に引き戻される


「もう会えねぇのに、連絡しても優を困らせるだけだからって。あいつほんといつもお前の話ばっかしてた。」


心の奥に残ったものは


今でも消えずに


まるで


『…泣』


間違えて冷たいコーヒーに落としてしまった角砂糖みたいに


「しばらくは俺ら、普通に連絡やりとりしてて。つってもほとんど優の近況報告って感じだったけど。」


混ぜても混ぜても


「けど」


消えずに残る…


「中学入ってしばらくして…なんかあいつ雰囲気変わっちゃって。」


『…』


「…あいつに、彼女できた辺りから。」


『っ…』


わかってる


「つるむ仲間で、人間って変わるだろ。」


彼女がいたことなんて


そんな当たり前のこと…


なのに


どうしてこんなに…

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