第5話

『…トイレ行ってくる』


「はーい」


七美たちに声をかけ静かに後ろの扉から教室を出て


トイレの方へ廊下を歩いていく


廊下の窓から吹き込むそよ風


立ち止まり


窓の向こうにある空を見つめる


秋のにおいがする


ほんの少し冷たい風を避けるように


また


足を進めようとした時


『っ』


後ろから


「…」


腕を掴まれて、その足を止めた


『…なに。』


「冷てぇ。笑」


『離してよ、腕。』


「やだ。」


『…なんか、変わったね。』


「あ?」


『あの頃と…全然雰囲気違うから。身長も、私と同じくらいだったのに。それに…』


「…んだよ。」


『…』


そんな風に


鋭い目で誰かを見ることなんて


あの頃はなかった…


「普通はこういう時、もっと喜ぶもんじゃねぇの?俺ら5年ぶりに会えたんだぜ。」


『っ…』


「俺は会いたかったよ。」


『っよく言うよ…あれから一度だって連絡くれなかったくせに。』


「あぁ、怒ってんの?笑」


『っ…』


「別に俺ら、付き合ってたわけでもねぇし。お前ら中学入ってすぐ付き合ったんだろ?」


『っ』


そっか…


『…もういい。』


なんだ…


『離してよ。』


「は?」


『…』


達也とは連絡とってたんじゃん…


『…っ今更戻ってきて…馴れ馴れしく話しかけないで!』


「…」


ドンっ!


『っ』


「…」


『…っ』


突然壁に強く体を押し付けられ


強く触れた唇


『っ…』


「…」


『…痛い…』


ねぇ


『…泣』


なんで…


「…泣くほど嫌かよ。」


そんなふうに


「あの頃はこんなこと、俺ら普通にやってたじゃん。」


見下すような目で小さく笑って


「…」


そんなふうに


『…』


優しく抱きしめないで…

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