第34話 統合失調症ならではの悩み

統合失調症という診断を受けてから、僕は自分の心がまるで別の存在になってしまったかのように感じることがある。周りの人には見えないものが見えたり、聞こえない声が聞こえたりする経験は、僕にとってとてもリアルで、その度に自分自身がどこにいるのか、何を信じればいいのかがわからなくなる。


一番の悩みは、「自分自身が信じられなくなる」ということだ。幻覚や幻聴が現れると、それが現実なのか、頭の中だけの出来事なのかが判断できなくなる。例えば、誰かに呼ばれたような気がして、その方向を見ても誰もいなかったり、何か悪口を言われているような感覚に陥ったりする。そんな時、僕は自分の心がどんどん壊れていくような感覚に襲われる。


これまでに何度か、声が聞こえるということを周りに伝えたことがある。でも、その時の反応はいつも決まって「それは気のせいだよ」「そんなことないから気にしないで」という言葉だった。その言葉を聞くたびに、自分の感覚や感じていることが全否定されたような気がして、ますます自分を信じることができなくなっていった。


もう一つの悩みは、普通の生活を送ることがとても難しいということだ。例えば、仕事に行くことや人と話すことが、ある日突然、どうしてもできなくなることがある。何かが自分を押しつぶすような感覚に襲われ、体が動かなくなってしまうのだ。そんな日は、何も手につかず、ただベッドの中で時間が過ぎていくのを待つしかない。


その一方で、「普通でありたい」という気持ちも強くある。普通に働いて、普通に生活して、普通に友人と話して笑い合いたい。でも、統合失調症という病気が、それを許してくれないような気がする。普通に見える自分の姿の裏で、常に自分自身との戦いが続いているのだ。


幻覚や幻聴がある時、頭の中がごちゃごちゃになり、思考が混乱してしまう。何か一つのことに集中することができなくなり、気が散ってしまう。仕事や日常のタスクに取り組もうとしても、頭の中で声がささやくことで、その集中力が途切れてしまうことが多い。そんな時、自分の無力さに苛立ちを感じることがある。


さらに、社会の中での理解の少なさも、僕にとって大きな悩みの一つだ。統合失調症という病名を聞くと、すぐに「危ない人」というレッテルを貼られることがある。そのため、病気のことを話すことができず、心の中に全てを閉じ込めてしまう。それがどれほど苦しいことか、なかなか理解してもらえないことが多い。


「おかしなことを言っている」「変な人だ」という目で見られることが怖いから、外では普通のふりをしてしまうことも多い。けれど、その仮面の裏では、常に自分との葛藤が続いている。その葛藤を誰にも打ち明けられずにいることが、僕の心をますます孤立させていく。


薬を飲んで症状をコントロールすることはできるけれど、それでも完全に症状がなくなるわけではない。薬の副作用で体がだるくなったり、気分が沈んだりすることも多い。それでも、少しでも普通に近づくために、薬を飲み続けるしかないという現実が、時に重くのしかかる。


統合失調症という病気は、僕の生活の中で多くの壁を作っている。普通でありたいと思う一方で、普通でいることがとても難しい。その矛盾の中で、自分がどこに向かっているのか、何を目指しているのかがわからなくなることがある。


それでも、僕は少しずつでも前に進みたいと思っている。統合失調症という病気を抱えながら、自分の道を見つけることができたなら、それは僕にとって大きな希望になるだろう。自分を信じられなくなることがあっても、少しずつ自分を取り戻し、自分を受け入れていきたい。


この病気が完全に治ることはないかもしれない。それでも、病気と共に生きる方法を見つけ、自分なりの幸せを見つけていきたい。統合失調症という壁を少しずつ乗り越え、自分の生きる意味を探し続けたいと思う。今日もまた、自分の心と向き合いながら、少しずつ歩んでいこうと思う。

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