第33話 カラオケが繋いだ友情

カラオケがきっかけで、友人ができた。それまで、友人関係を築くことが苦手だった僕にとって、それはとても大きな出来事だった。大人数の集まりがどうしても苦手で、人混みや賑やかな場所に行くと緊張してしまい、どうしても自分を出せずにいた。けれど、少人数でのカラオケという場が、僕にとって心地よい出会いの場となった。


ある日、カラオケが好きだと話していた僕に、友人が「今度、少人数でカラオケに行くけど、一緒に行かない?」と誘ってくれた。その時、僕は正直少し迷った。大人数が苦手だということを知っていたので、友人はわざわざ人数が少ない時を選んで誘ってくれたのだ。それでも、いつもの不安が頭をよぎる。「自分が行っても楽しめるだろうか」「みんなに迷惑をかけないだろうか」と。


けれど、その優しさが嬉しくて、勇気を出して「行く」と返事をした。実際にカラオケの場に行ってみると、友人たちは僕がリラックスできるように気を使ってくれた。何を歌いたいか聞いてくれたり、僕が緊張していないか気にかけてくれたり。その温かい雰囲気がとても心地よかった。


いつもなら、自分を押し殺してしまう場面でも、少しずつ自分のことを話すことができた。「カラオケが好きで、ひとりでよく歌いに行くんだ」という話をすると、みんなは「すごいね」「ひとりカラオケって楽しそうだね」と興味を持って聞いてくれた。普段はあまり人に話さないことを、自然に話せるようになっていた。


カラオケの曲を選ぶ時も、僕が好きな歌をリクエストしてくれたり、一緒にデュエットをしようと言ってくれたりした。その一つ一つの言葉が、僕の緊張をほぐし、自然な笑顔を引き出してくれた。歌っている時は、まるで自分の心が解き放たれるような感覚だった。


それ以来、カラオケが少人数で開催されるたびに、友人たちは僕を誘ってくれるようになった。彼らの優しさと気遣いのおかげで、僕は少しずつ自分の居場所を見つけられるようになった。普段はなかなか話すことができない自分の気持ちや、好きなことについて話せる場ができたことは、本当にありがたかった。


カラオケという場所が、僕にとって特別なものになったのは、そこにいる友人たちの存在があったからだ。大人数が苦手で、どうしても自分を出せずにいた僕に、少しずつ心を開ける場所を与えてくれた。彼らの温かい配慮と優しさが、僕を変えるきっかけになった。


それでも、大人数の集まりにはまだ緊張してしまうことがある。みんなで集まる時に、どうしても自分が浮いてしまうように感じることがある。けれど、そんな時も友人たちは無理に僕を引き込もうとせず、僕のペースに合わせてくれる。そのおかげで、少しずつ人との関わり方に自信を持てるようになった。


カラオケを通じてできた友人たちとの関係は、僕にとってとても大切なものだ。彼らの存在が、僕に新しい世界を見せてくれた。自分の殻に閉じこもっていた僕が、少しずつ外の世界に目を向けられるようになったのは、彼らのおかげだと思っている。


これからも、彼らとの時間を大切にしていきたい。カラオケという場を通じて、さらに多くのことを共有し、お互いを理解し合っていきたい。そして、僕自身も少しずつ自分のことを話し、素直な自分を見せられるようになりたい。


カラオケが繋いでくれた友情を、これからも大切にしながら、僕は少しずつ自分を成長させていきたいと思う。どんなに小さな一歩でも、それが僕にとっての大きな変化の始まりだから。友人たちの温かい雰囲気に支えられながら、これからも自分らしいペースで歩んでいきたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る