第3話 働けない僕と、働く場所
「お金がない!この先どうするのよ!」。母の嘆く声が、夕飯の支度をするキッチンから聞こえてくる。その声を聞くたびに、僕は胸が締めつけられる。僕が家計の足を引っ張っていることは、痛いほどわかっている。けれど、どうしようもない現実が、僕の足元に重くのしかかっている。
僕は、いわゆる「普通の仕事」には就けない。病気の症状が安定しないため、フルタイムで働くことは難しいのだ。統合失調症や双極性障害の波がある日々の中では、体も心も安定せず、気力を振り絞っても、日常生活をこなすことさえ辛い。自分の状態を把握し、コントロールすることに精一杯で、社会の歯車として働くことは、今の僕には到底無理だ。
そんな僕が通っているのは、就労継続支援B型事業所。ここでは、自分のペースで作業をすることができる。シール貼りや簡単な箱折りなど、体調や気分に合わせて、無理のない仕事が用意されている。それでも、体調が悪い日は作業に集中できず、周りの人と上手くコミュニケーションを取ることができない。
事業所のスタッフは理解してくれていて、「無理しなくていいよ」と声をかけてくれるけれど、内心では「自分は何もできていない」と思うことがある。作業が遅いと、他の利用者さんのペースを乱してしまうんじゃないかと不安になることもある。
事業所に通う日は、毎朝「行けるだろうか」と自問自答する。病気の波が大きい日や、気分が沈み込んでいる日は、布団から出ることさえ億劫だ。そんな時は、自分に「無理しないでいい」と言い聞かせるようにしている。無理して行ったところで、体調が悪化すれば、もっと多くの迷惑をかけることになるから。
生活費は障害年金でなんとか賄っている。僕のささやかな収入だが、それでも一人分の生活費としては不足している。両親と同居しているおかげで、なんとか生活できているけれど、彼らも年金暮らしだ。母が嘆く「お金がない」という言葉は、僕自身への苛立ちも含まれているのかもしれないと、時々思ってしまう。
両親は高齢で、今後の生活も決して安定しているとは言えない。いつまで一緒に住めるのか、そして一緒に住むことで彼らにかけている負担を考えると、僕の心は不安と罪悪感でいっぱいになる。もし、僕が経済的に自立できていれば、彼らの負担も少しは軽くなるのだろうか。だけど、現実はそう簡単ではない。
「働けないことは恥ずかしいことじゃない」。事業所のスタッフやカウンセラーの先生はそう言ってくれるけれど、自分自身を納得させるのは難しい。社会に貢献できないこと、家族に負担をかけていることが、僕を無力感で押し潰していく。
それでも、今の僕にできることは、事業所に通い続けることだ。少しでも自分の存在価値を見つけるために。無理をせず、自分のペースで一日一日を過ごしていくこと。たとえそれが小さな一歩でも、僕にとっては大きな前進だ。
「お金がない」という現実と向き合いながら、それでも僕は少しでも自立できる未来を夢見ている。いつか、僕自身の力で両親を支えられるようになること。その日が来るまで、僕は自分の歩幅で、この道を歩いていく。
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