またの敗北
私は結局自力で山名さんと同じ高校に入った。推薦ではなくとも通る成績であったし、自由な校風が魅力的だったからだ。
高校で勉強以外のことに目覚めてエネルギーを注いだ私は、学力の順位を著しく落とした。関心は学校のイベントと、習っていたピアノにあった。いつしか山名さんの存在を意識することもなくなっていた。
高校二年になった私は、選択授業の音楽の時間は早めに音楽室に行って、ピアノを弾かせてもらっていた。音楽室には何台かピアノがあったが、お気に入りは一台しかないグランドピアノだった。私が弾き出すと、数人の女子が聴きに入ってきていた。
「佐々木さん上手だよね。私、佐々木さんのピアノの音優しくて好き」
そう言われるとくすぐったくも嬉しかった。
ところが。
次のピアノのレッスンから、リストの『ラ・カンパネラ』を練習することになっていたときだった。音楽室でピアノを弾いていると、ピアノの音が隣の部屋から聞こえてきた。それは完璧なまでの『ラ・カンパネラ』だった。私は心がちりちりするのを感じた。いったい誰が弾いているのだろう。
授業が始まるとき、隣のピアノ室から出てきた女子に私は目が釘付けになった。山名さんだったのだ。
「先ほどのラ・カンパネラは見事でしたね」
授業の前に音楽の先生が言った。滅多に褒めない先生だった。
私は再び、負けた、と思った。
山名さんのことなど忘れていたのに。
得意のピアノさえこんなにも差をつけられていたなんて。
山名さんはいつも私の前に立ちはだかる。
本人は意識していないだろうことが、ますます私を苛立たせた。
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