第44話

「………イズミだろ?」



黙り込んだイズミを、もう一度呼ぶ。




イズミは一瞬ひどく切ない泣きそうな顔をしたあと、止まっていたタクシーに乗り込んだ。




決断を迫られた時、誰かを殴りつける時

躊躇やためらいなど、したことはなかった。



なのに、どうしてか。



この時の俺は、驚きに指一本動かすことができなかった。






泣きそうな表情に呆然としていた俺の目の前でタクシーが動き出す。



待…っ




「イズミっ!」




慌てて止めようとするが間に合わず、小さくなって行くタクシーを見送った。




クソっ!

何やってんだ俺は




苛立たしげに舌打ちをする。

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