第38話 背中合わせで裸に

「えっ?……冬、試合は?」

「試合と瑞稀のどっちが大切かって言ったら、瑞稀に決まってるだろ?」

 う、嬉しい……けど、何だか申し訳ない気持ちも当然あって複雑です。


「あっ…うっ……なんか……ごめん」

 上手く言葉が出てこない。

 こういう時って何て言えばいいんだろう。

 とりあえずは謝っておかないと。


「寝顔も可愛いよな。得した気分」

 やだぁ……もうっ……。

 恥ずかしくて、嬉しくて顔を両手で隠して、俯いて。


 試合より私の方が大事って繰り返して言われてるみたいで、キュンってなる。

 しかも、『も』を強調してくれるあたり、嬉しくて。

 寝顔を見られて、いい気分になる人なんて少数派だと思うけど、そう言われると、やっぱり嬉しいんだよね。


「ばかっ……」

 小さい声で照れ隠しに言ったら、冬が側までやってきて、ニィーって笑うから、何?何?って少し焦ったんだけど


「おはようのちゅー」

 もうっ……デレデレした顔が見られちゃうじゃん。

 小さく頷いて、顔から手を離して、目を閉じて顔をあげる。

『おはようのちゅー』なんて、普通には出来ないし、やっぱり憧れるし。


 冬の唇と私の唇が重なって。

 今、すごく幸せです。

 心がホクホクして満たされていく。


 チアユニの私とバスケユニの冬ってシチュエーションも堪らない。

 応援できなかったけど、何だか試合後にこうして『今日も応援ありがとう』って言われて、キスされて……。

 そんな感覚になる。

 実際に次の試合の時とかにされたいなぁ……。


 顔をそっと離してくる冬。

 こういうところで、ガッツいてこないのも素敵。

 甘い時は甘くて、意地悪な時は意地悪で。

 メリハリって大事よね。


 おでこに冬のおでこがくっ付いてきて

「今のうちにバックれて、デート」


 ううっ……チア部のみんなにも、バスケ部の人たちにも申し訳ないけど、そのお誘いは断れません。


 体育館裏で何かしてたって言うよりも、デートに行ってましたって言い訳の方がお互いにとっても良いと思うし。

 何よりも早く冬とデートしたいです。


 冬にギュって抱き付いて、コクコクと何度も頷いてYESのお返事。


 と――、冬の視線がカバンへと向けられてから、私の顔へ。

 その顔は悪戯っ子のモノで、ゾクっとしちゃう。

 薄々とは分かっているけど、首を傾げて『何?』って感じで冬の顔を見つめると、冬の手が頭の上に乗せられて、ポンと撫でてきて。


「着替え」

「……えっち」

「後ろ向いてるから」

 冬になら視られてもいいんだけど、違う感じのドキドキもあって

『振り向かないでよ』とか言わないで、小さく頷く。


 お互いの身体がそっと離れて、私はカバンを持って、机の上に置いて。

チラっと後ろを見ると冬の背中が見える。

 ふぅーと息を吐き出して、心臓の高鳴りを鎮めるように努力するけど、

お尻を突き出して、ソックスを脱いで、またチラっと後ろを見て。


 チアユニのトップスを脱いでから、スカートも脱いで……。

 はい、好きな男の子の前で全裸です。

 二人きりの教室で女の子の方がカレシの前で全裸になるって、恥ずかしい。


 けど、このシチュエーションはかなり刺激的。

 冬の背中にこのまま抱き付きたくなる。

 身体ごと冬の背中の方に姿勢を変えて立って、脱いだモノをそっと冬の隣の机の上に置いてみたり。


 チラっとそれを見た冬が、クスと笑ったのが後ろからでも分かってしまう。

「瑞稀。今、裸なんだ」

 うん、まさしく一糸纏わず……全裸です。


 冬の背中に身体を押し付けて、後ろから冬の目を手で隠すようにして、背伸びして耳元で

「んっ……こっち視ちゃダメだよ」

 なんて恥じらい全開の声で囁いちゃう。


 きゃーっ……恥ずかしい。

 私の息が熱くなってる事がバレてるよね?

 乳房の突起が硬くなってるのもバレバレだよね?


「デートの前にまた寝落ちさせるぞ」

 きゃーっ……、それでもいいけど。

 目隠しを解いて、首筋に唇を押し当てて軽く舌を滑らせて

「あんっ……だめぇ……」

 私、言ってることと、やってる事が無茶苦茶だ。


「デート中に寝落ちさせてやるからな」

 いぢわる、いぢわる……。

 今日、私が寝落ちするくらい果てた事を、そんなに強調しないでよぅ。


 今でもデート中でも、それでもいいって思ってるけどさ。

 冬も分かってて言ってると思うし。

 どっちにしろ、私を気持ち良くさせてくれるって意味だし。


「はぁっ……冬に意地悪されちゃう……いぢめられちゃう……」

 ウットリした声で何を言ってるんだか、私。


「当たり前。意地悪するし、苛めるから。瑞稀が可愛くなるしね」

 シレっと宣言頂きましたー。

 期待しちゃう。


「……か、可愛くしてね」

 うわーっ……私は一体……。

 意地悪して下さい、いじめて下さい。

 ――って、言っちゃってるよー。


 しかも、裸で冬に抱き付いたまま。

 冬の温もりを直に感じて、おかしくなってるのかも。


 私ってこんなにおねだりする子だったんだなぁ……。

 冬と一緒にいると、冬を感じていたい気持ちが溢れだして止まらないんだよ――。

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