第34話 大好き

「桃瀬先輩って痴女じゃないですかぁ」

ぅぅ……違うってハッキリと言えないところがツライ。


「さっき、イチャイチャしてましたけど、チアスカの下は下着だったって事ですよっ」

「ヘンタイじゃないですか」

「あたしには、そんなの好きな人の前で無理ですよ。はしたないって言うか……」

「あっ……あたしじゃなくて、そんなの普通の女の子のする事じゃないですよー」

「秋山先輩だって、そう思いますよね?幻滅しますよね?カノジョが、こんなだったらぁー」


 見えてないけど、困っているのか笑っているのか、とにかく冬の複雑な表情が脳裏に浮かんだ。

 そして、麻美に『ゴメン』って心の中で謝る。

『ヘンタイ』で『はしたなくて』って。

 普通かどうかは別として、麻美の気持ちは分かるんだけど……。

 冬は少し特別だから……。


 ふぅっと小さく冬が息を吐いたのが、分かった。

「気が済んだ?」

「えっ?」

 冬の言葉に呆気に取られている感じの麻美の声。


「オレ、瑞稀の事が好きだからって言ったはずだけど?」

「だっ、だから、だからっ……ですよ」

 冬に言葉で勝てる人なんてそうそう居ないと思うんだ。


 麻美はどうして分からないの?って苛立ちを隠しきれてない感じだけど、

 桃瀬瑞稀の事が好きって言ってるのに、むしろ、どうして分からないの?って口調の冬の言葉に私はキュンキュンとしてしまう。


 おそらく私のカバンも手に持ったのだと思う。

「じゃあ、これとこれ。オレから瑞稀に渡しとくから」

「あっ、秋山先輩っ……あたしっ……」

 焦ったような、必死なような麻美の言葉を遮るように

「瑞稀はね、可愛いだけじゃなくて、優しいんだよ」


 ひゃぁーっ……照れるぅ……照れますぅ、顔が熱いよぉ。

 麻美は気付かないだろうけど、『キミと違って悪口は言わないんだよ』

って、性格の事を言ってくれたのだと思うと、顔だけじゃなくて、はしたなくて、ヘンタイだけじゃなくて性格もって……。


 ふぁーっ……身体が勝手にくねくねしちゃう。

 冬ーっ、私も全部が好きだからーって、心の中で叫んじゃう。

 って、今は浸ってるわけにいかない。

 ここに居たら麻美が戻ってくるし……。

 えーっと……そーっと忍び足で後ずさりして、とりあえず迂回。


 体育館の裏側に回って壁に背を預ける。

 ふぅ……心臓がドキドキする。

 心臓の鼓動が煩い。


 あの麻美よりも私の方が可愛いって。

 冬の胸の飛び込みたい。

 試合後までお預けだけど、キスをしたい。

 えと……意地悪もされたい……です。

 今の私なら冬の事、何でも聞きそう。


 顔に両手を当てて、ピョンピョンって飛び跳ねて、身体中で嬉しいって表現してたら、チアスカートがめくれあがって。

 うん、それはめくれるよね。

 でも、無防備なソコに視線を感じて。

 やだっ……視られた?


 顔を手で隠したまま、視線の感じる逆方向に顔を向けて。

 ドキドキしていたら

「もう終わり?」

 聞えた声は冬の声。


 ここで愛しの声が―っ……。


 冬になら視られてもいいんだけど、今は凄く恥ずかしくて。

『もう終わり?』って事は、やっぱり視られてて、『もっと』って事だよね?

 もうっ、意地悪。

 勝手に視せてたのは私だけどさ。


 不意に冬の身体に包まれる心地良い感覚。

 そして、私の鞄を目の前に差し出してくれて。

 顔を隠していた両手を離し、冬の方に顔を向けて


「あ、ありがとう…」

 鞄を受けったら、アンスコをひらひらと目の前で私に見せてきて、そのままジャージのポケットの中に押し込んで。

 ちょっ……それは……あのぅ……

 顔が真っ赤になるのが分かる。


 アンスコまで獲られちゃった。

 多分、返してって言ったら返してくれるんだろうけど、今は二人きりだよ。って言われてる気がして、何も言わなかった。


 そっと、ユニのトップスの裾をめくりあげてきて、ストラップレスのフロントホックのスポブラのフックをプチって。

 トップスから抜き取られて、またジャージのポケットの中へ。

 胸を締め付けていたモノが無くなり、解放感って言うか……刺激っていうか。


 好きな人に下着を脱がされる感覚って不思議と気持ち良よくて。

 私の全てを捧げたいって思っちゃうからかな。

 見た目は普通だろうけど、下着だけが無い状態にされているのも、刺激的で。

 冬と二人きりなんだって思うから、嬉しくて。


 冬に何か言いたいけど、どうしても盗み聞きしてましたってなるから、冬の顔を見ては、頬を赤くして、俯いてを繰り返しちゃう。


「オレが可愛いと思ってるのは瑞稀だけ。好きなのも瑞稀だけ」

 あっ……バレてるし。

 もう、全部が恥ずかしいけど、やっぱり嬉しくて。

 鞄をそっと地面に置いて、身体を冬に向けて正面から抱きついて。


 嬉しくて涙が出そう。

 コクコクって何度も頷いて、『私も』って伝える。

 きっと伝わってるよね。


 冬からも『もっと』って言うように、抱き寄せてきて強く抱きしめてくれて。

 冬の温もりとか、男らしい身体とか、香りとか満喫状態。


 幸せです。

 今なら裸になってって言われても、きっとなっちゃう。

 何をされても良いって思っちゃう。

 恥ずかしいから、言わないけど――。

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