第32話 約束したからね

 「……いぢわる」

 首から手を離して、冬の脇下から背中に腕を回し直して、胸元に顔を埋めて。

 抗議になっていない甘くて小さな声だけど、一応は悪態をついてみたり。


「キスのおねだり可愛かったなぁ」

 って、私からキスをせがんだ事を可愛いって言ってくれるから、ふにゃふにゃになっちゃう。


「だって……」

 恥ずかしくて、もじもじと小さく言うと

「意地悪っていうのはさ……」

 冬の意地悪で大好きな声音で耳元で囁いてこられて、肩がピクンって跳ねる。

 冬の手がスカートの中に入ってきて、お尻の真ん中の下から前に人差し指が伸びてきて、クチュって音を響かせてきて。


 あぁぁぁぁぁっん、だめぇ……。

 いぢわる、いぢわるぅ……。

 気持ち良いんだから……。


 身体を反らしそうになるくらいの刺激を与えられて、ビクンピクンって大きく身体が跳ねるけど、なんとか踏ん張って、ギュウって冬に抱き付いて。


「ぁ、ぁぁっ……あぁぁんっ、あんっ……」

 胸元に熱い息を吹きかける。


「――こうだろ?」

 やっぱり意地悪に囁いてくる冬。

 恥ずかしくて、蕩けちゃって。

 やっぱり二人きりで居たいなぁって思いながら、小さく頷いて


「……うんっ」

 って、返事をしちゃった。

 いぢわるってこうだよねって。

 恥ずかしすぎる。

 恥ずかしいけど、いぢわるな冬が好きなんだもん。

 冬にいぢわるされるの好きなんだもん。


「瑞稀ってすぐに回復するからなぁ。もう少しこうしていれば大丈夫だろ」

 やぁぁんっ、ばかぁ、それって何?

 私って凄いエッチだって言いたいの?

 冬と一緒なら、そうだろうけどさ……。

 私がチアの部室にこのまま戻れないから、今こうしてギュってしてくれるって

分かるけど、すぐに回復するって言われると、やっぱり恥ずかしい。


 今日だけで何回もイった事を指摘されてるみたい。

 みたいじゃなくて、指摘してるよね?

 瑞稀ってタフだなって。


 冬だからなのっ。

 せっかく二人きりなのに、勿体ないじゃん。

 へばったらさー。

 もっとって思うじゃんーっ。

 って、やっぱり私、えっちな女の子じゃん。


「……し、知らないっ」

 恥ずかしくて、認めなくて言ったけど、これって、そうだよって意味だよね。


 冬は優しいながらも、強く抱き締めてくれる。

 あの……治まらないんだけど……。

 私、冬の言った通り、すぐに回復するようで……。

 今も既にもっとって、思ってるんですけどーっ。


「ん。オレは知ってるから」

 あぁぁぁっ……。

 私がエッチな女の子って事をですかーっ?

 オレのカノジョは凄くエッチなんだよって事ですかー?

 知って欲しいけど、言わないで―。

 恥ずかしくて、胸元で顔をグリグリって押しつけて首を左右に振って、背中をポカって叩く。


「瑞稀が凄く可愛くて、その可愛い女の子がオレのカノジョなんだからさ」

 うわぁぁぁぁっ、耳が、鼓膜がーっ。

 冬に犯される。

 耳が幸せにされるーっ。

 耳から脳にかけて、とろとろに溶けて、脳が身体を蕩ける命令を出しているみたい。

 こんな場所で私を蕩けさせないでーっ。


「……カレシが冬だから……」

 あぁぁっん、私は何を、何を言ってるの。

 いっぱい『好き』って言いたいけど、これはその……。

 カレシが冬だから、何なの?

 エッチな女の子になるって自分で言ってる?

 直ぐに回復するのは冬だからって自分で言ってる?


 脳みそが蕩け切って、変になってる。

 本音をぽろぽろと垂れ流し状態。


「ん。瑞稀、好き」

 あぁぁぁぁんっ、もうダメ。

 このまま、ここで冬に何をされてもいい。

 甘い声で言ってくるのが、また、蕩けさせてくる。


「んぅっん、あぁぁんっ……冬、好き。大好きっ!」

 甘ったるくて、蕩け切った声で、大きな声で、言っちゃった。

 止まらない。

 止まれない。

 また、つま先で立って、首元や頬に何度も何度も唇を押し付けて。


 女子棟からの視線と声が突き刺さるのを感じるけど、私はもうダメ。

 もしかしたら、みんな呆れてるかも。

 うん、呆れていいよ。

 その方が私も気が楽だし。


 冬が頷いたのが分かる。

 冬から唇に何度もキスを落とされて、好きっていっぱい言われて、私も好きっていっぱい言って。


「……冬、二人きりになりたい……ブラ……脱ぎたい……」

 甘える声で、大胆なって言うか……ブラ脱ぎたいって何を言ってんだか……。

 冬が好きな恰好、冬が可愛いって言ってくれる恰好になりたいだもん。


 はぁ……身体が熱い。

 二人きりになってブラを脱いだからって、少し涼しくなるわけでもないし、逆に熱くなるなんだけど。


「オレだって、相当、我慢してんだぞ」

 嬉しい。

 私じゃなくて冬も同じ気持ちでいてくれた事が凄く嬉しい。

 でも、きっと今は我慢しろって意味だよね。

 

「試合終わったら、二人きりでデートするんだろ」

 コクコクって何度も頷いて、耳を貸してって小さく言うと、冬が首を私に向けて傾けてくれて。


「……その時に、沢山いぢわるしてくれる?」

 甘い声でおねだりを囁いて。


「言われなくも、する」

 その言葉に頬を緩ませて。


「絶対だよ。今は……私も我慢するから、いっぱい苛めて。約束したからね」

 『いぢわる』から、『苛めて』に被虐性を訴えるように、甘えて約束する。

 私の蕩け切った脳は願望を隠す指示はしてくれなかった。

 身体が熱くて、冬と一緒にずっとこうやって過ごしたいし、冬もでしょ?

 二人きりの時は我慢しなくていいよ――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る