第30話 呼び出し

 冬とカレカノになる、ううん、仲良く話をしているだけでも、お喋りしているだけでも、こうなるって分かっていたけど、改めて冬って人気あるんだなぁって再認識させられた。


 恋愛と友情って異性が絡むと難しいよねって言うのも実感した。

 でも、仕方ないじゃん。

 私は冬と一緒に居たいし、冬が私を選んでくれたんだから。


 もちろん、冬を狙っていた子の気持ちもすっごく分かるけどさ。

 もし、冬がカノジョがいるのに、他の女の子とも付き合うような男子だったら、イヤでしょ?


 そんな男子じゃないから、モテるのに浮ついた噂がなかったのもカッコいいわけで、みんなが好きになっちゃう人だったんでしょ?って思う。


 これって、きっと私がカノジョになれたから言えるんだけど。

 しばらくしたら、ほとぼりも冷めて、公認になるんだろうし、それまでの我慢なのかなぁ……。


 とにかく今は、なんで桃瀬がーって言われないようにしないとね。

 今のポジションを絶対にキープするもん。

 冬の隣は私の指定席だって死守するからっ。


 仲の良い友達から

「まぁさ……瑞稀も男子から何気に人気あるし、秋山と瑞稀だったら、納得する人も多いと思うよ」

 なんて言ってくれると、嬉しいよ。


「でも、秋山って……」

 クスって笑いながら、首筋を見て

「意外と独占欲強いんだねぇ……。瑞稀を誰にも取られないようにって、見える場所にこんなの付けてって、意外だったなぁ……」

 

 うん、冬って独占欲が強いんだよねぇ。

 あたしも負けないくらい被独占欲が強いけど。

 でも、分かるよ。

 ホントに意外だよね。


 はにかんで友達の方に顔を向けて、照れた感満載で小さく頷く。

 きっと自信を持てってエールだと思うから嬉しい。


 背中をパンッって叩いてきて、他の子にも聞こえるように色々と言ってくれて、助かるよ。

 持つべきものは友達だよねぇとも思う。


 私を囲んでいた部員たちが、「準備しないと」って言いながら囲いを解くけど、視線は私に向かってきてるんだよねぇ。

 なんだか監視されてるみたいで、居心地悪いなぁって思うのは、うん。

 椅子から立ち上がれないし、アンスコを履ける状態じゃないから。


 もうっやだぁ……このまま応援なんて無理だからねっ。

 太腿がモゾって動いちゃう。

『想像したらダメだよ、瑞稀』

 って自分に言い聞かせる。


 部室のドアが開いて、チア部の後輩が

「桃瀬先輩ぃーっ!」

 って、入ってくるなり言ってきて、何事?って思ってたら


「秋山先輩が、呼んでますっ」

 って。

 また、周囲の視線がー、声がーっ。

 しかも、まだ準備ができていないのに、このタイミングで呼び出し?

 嬉しいけど……。

 

 だって、冬から呼び出されたんだよ?

 あたしより、冬の方があたしに逢いたいとか?って思うとニヤけちゃうって。

 しかも、冬があたしの事が好きってチア部全員に知らせてくれた感じも、ナイスアシスト。


 なんだけど、今の恰好のまま冬に逢ったら……。

 タイミングが良いのか悪いのかだよ。


 もちろん尻尾を振るように、行くんだけど。

 ホントに尻尾があったら、すっごい振ってそう。

 冬に逢いたいのは私だって負けてないつもりなんだからっ!


「ちょっと行ってくる」

 部室に居る部員に向かって言ってから、椅子からそーっと立ち上がって。

 水色のチアユニのままっていうか……アンスコ履いてないまま部室から出る。


 男子棟の方から学園カラーのブルーのバスケ部のユニを着て、その上から同じくブルーのジャージを身に纏っている冬の姿にキュンキュンしちゃう。

 大きく手を振ってから、手招きしてくるけど、もちろん、行きますともーっ!

 恥ずかしくて、私の手を振る手は胸元で小さくだったけど。


 部室のドアが少し開いていて、後ろから視線を感じるから、スカート抑えてもいい?

 って、思うけど、あれって冬には言って無いマイルールだもんね。

 それも恥ずかしくて、小さい歩幅で冬の方に向かって歩く。


 でも冬はきっと気付いてる。

 そら、冬の視線がチアスカートの裾に突き刺さるのが分かるから。

 ああっ……私からバラしちゃった感じになってしまった。

 やぁんっ、恥ずかしい。

 冬にバレるのは仕方ないとしても、お願い。

 今は風とか吹かないで。


 無事に男子と女子との共有スペースに着くなり、冬は私を壁に背中を押し付けさせて、女子側の方の手を壁に押し当て、壁ドン。

 きゃーってなる。

 後ろからもキャーって言ってるのが聞こえるけど、私が一番キャーっなんだよ。


 でも、分かってる。

 私を隠そうとしてくれてるって事は。

 正確に言うと、私のチアスカートの中を、だけど。

 優しいんだか、意地悪なんだか。

 履いてないんだろ?って言われてるような感覚はすっごく意地悪だし。


 でも、こうして憧れの壁ドンも冬からされて、ほくほく。

 私を守ってくれてるって優越感もあって。

 色々な感情のドキドキが止まらない。

 

 はぁっ……冬のカノジョになると、脈拍が凄い事に。

 でも、すっとドキドキしていたいなぁ。

 キュンキュンするのって、幸せなんだよ――。


 


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