第29話 チア部室

 部室棟まで一緒に歩いて、そこで男女の方角に分かれる。

 もちろん、あれからここに来るまで何もないなんてことはなくて。


 冬に意地悪されると可愛くなるカノジョ全開だったよ。

 色々と我慢するのが大変で。


 私と冬が一緒に、並んで歩いているだけで、男女ともに「あの秋山と桃瀬がー?」って顔をしてるんだもん。

 そんな視線もお構いなく冬はマイペースで、私が隣に居るのが当たり前みたいに歩くから照れるけど、嬉しい。


 だけど、スカートをめくったり、お尻を触ってきたり、そんなのを不意打ちでされるから、その度に変な声が出て、恥ずかしいんだから。

「きゃーっ、何すんのよー」

 じゃなくて

「あぁんっ」

 だもん。 

 自分でもどうかと思ってるけど、仕方ないじゃん。


 人が居ない場所でするから、バレてないとは思うけど、視られたり、聞かれたりしてたら、私ってヘンタイじゃん。

 制服でもアレだけど、チアユニなんだし。

 そして、何よりもイヤなのが冬が意地悪な事を知られるって事かも。


 それを知ってるのは私だけ。

 意地悪されるのは私がいいんだもん。

 人目の無い所で意地悪するって事は、冬も私のそういうの知られたくないとかあるんだよね?

 やっぱり、頬が緩んでしまう。


 冬が、分かれる前に私の首筋を指先でなぞって、とある地点で指先で弧を描くように動かすと、変な声を出しながらも、冬の刻印に触れられている事がわかる。

 くすぐったそうにも、気持ち良さそうにも見えると思うけど、どっちも正解。


「これ、隠すなよ」

 なんて、独占欲を剥き出しに言ってこられたら、もう、胸がキューンってなる。

 私、だらしなく笑ってそう。


 コクって頷いて

「いいの?」

 って尋ねたら、コツンって頭を叩かれた。


 この場でピョンピョン跳ねたいくらいに嬉しい。

 そんな事をしたらスカートがめくれちゃうから我慢したけど。


 これは、誰に付けられたモノかまで言ってもいいんだよね?

 言ったら、みんなは何て顔をするかな。

 誰とは言わずに『カレシ』に、って言っても、誰々?ってなって追及の手は止まないだろうし、それから逃れる事も無理だろうし。


 冬に独占欲の証を刻まれたいって女子は多いんじゃないかなぁ……。

 嫉妬されても困るしなぁ……。

 っていうか、その……冬と一緒の時は、私はノーパンノーブラだから。

 そう簡単に嫉妬しないで欲しいと思うけど、言えるわけないし。


 秋山に付けられたって言う覚悟は決めたけど、聞くなら下着を着けている時に聞いてね。

 って、祈るくらいしか……。

 ホントに切実なんだよ。


 冬に手で『屈んで』って仕草をすると、何も聞かずに屈んでくる冬。

 可愛いっていうか、スマートって言うか……やっぱり好きだなぁって思う。

 その冬の背中に両腕を回して、上手くできるかどうか分かんないし、人目もあるけど、いいやって、首筋に顔を近づけると、察したように首を傾けてくるんだから。

 もうっ……嬉しくてニヤニヤが止まらない。


 冬の真似して軽く甘噛みして思いっきり、吸い付いてリップ音を響かせる。

 うっすらと気持ち程度に赤色が付いたけど、んー、いまいち。

 リップを塗り直して、やり直したいけど、それだと不自然なくらいにクッキリし過ぎるよね。


 私の不服をよそに、冬は嬉しそうにニコリと笑みを浮べて

「隠さないよ?」

 ってシレって言ってくるし。

 嬉しいよぉ。

 ピョンピョン飛び跳ねたいよー。


 って気持ちとは逆に、恥ずかしさが逆流してきて、顔を真っ赤にして両手で顔を覆って隠し、コクコク頷く。

 ううっ……恥ずかしいけど、やっぱり嬉しいだもん。


 今日はこればっかりだけど、ずっとそうかも。

 こんな甘い日がずっとずっと続けばいいなぁーって思う。


「また後で」

って、言い残して男子の部室の方に向かって歩く冬の背中を見つめて、見送ってから私もチア部室に向かう。

 チア部の部室に入ると、早速、質問攻め。

「見てたよ」から始まり、「抱き合ってた」と続いて、部員が私を囲んでくる。

「秋山くんと抱き合ってた」とか「秋山と付き合ってるの?」とか定番で。


『シャワー浴びるから待って』

 って、言いたいけど、言えない。

 これだと、秋山と何かした後みたいに聞こえるだろうし。


 瑞稀、ピンチです。

 アンスコを履く機会も今は無いの。


 で、もしチアスカートの中を視られたら、それはもう大変な事に。

 椅子に座って、前髪を弄りながら、俯いて


「付き合ってるの。秋山と……」

 ポツリと一言。


 その瞬間に部室内に悲鳴みたいな声が響く。

 そうだよね。

 分かってたけど、こうなるよね。


 祝福してくれる人もいれば、不満そうな人もいるけど、それも仕方ないんだよね。

 気持ちは分かるから。

 なにせ一番人気の男子がカレシなんだから。

 目ざとい子は、首筋の赤い印に気付いて、キャーっとか言うし。

 うん、私も他の子の見たら、言っちゃうだろうけど。


「だから、バスケ部の時だけ瑞稀って気合入ってんだ―」

 とか言ってくるけど、それはみんなも一緒じゃん。

 今日は特に気合を入れるけどさー。


 他の子はどうなんだろう?

 淡々と応援するのかな?


 全員が全員、秋山目当てじゃないけど、バスケ部の時は体育館っていうのもあるからか、声も響くし、応援席とコートが近いから良く見えるし、気合が入っているように感じるだけだったりする?


 それは、今日の試合で判ること。

 とにかく今は、シャワーは諦めるから、アンスコ履かせて――。

 

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