第4話  授業中3(女子視点)

 私の心の中を見透かしたような囁き声が、やけに大きく聞こえた。

「やっぱり、無色透明だと思うけど?」


 何が「やっぱり」なのか分からないけど、

『秋山の好みってスケスケの下着を履いている女の子ってこと?』

 ドクドクと心臓の鼓動が煩い中、そんな事を思ったけど、すぐに否定する。

 秋山は「桃瀬が」と言ったのだから。


 水色でもなく、白色のスケスケのパンツを履いている自分の姿を想像して、顔が一層熱くなるのを感じる。

 想像は止まる事を知らないかのように、それを今しているように脚を広げて秋山の熱い眼差しが突き刺さる姿を脳裏に浮べ、ダメダメと小さく首を横に振りながら 


『そんなの履いて秋山に見せたら、濡れてるのバレバレじゃん』

恥ずかしさに悶えてしまいそうになる。

 バレバレなのを今の距離で意地悪く耳元で囁き声で指摘されたら、それだけでおかしくなってしまいそう。


 ブラのストラップをなぞってくる秋山の指先の動きに肩をピクッと反応させて、

「お揃い」って言葉を思い出し、

『あっ……、って事は、パンツだけじゃなくブラもスケスケって事で……固くなって尖り、ツンと上を向いている乳房の突起も透けて視られちゃうよね』


 濡れているソコだけじゃなくて、感じている乳首までバレバレになる事を意識させられ、秋山の指先で乳首を悪戯される映像までも鮮明に脳裏に浮かび、ダメダメとばかりに再び大きく首を振る。


 間近にある秋山の顔の事を完全に失念していた。

 秋山の唇が、耳に触れる感触。


 これって、私から耳を愛でてと言っているような動きだったかも知れない。

 頭から身体全体に痺れるような甘い感覚に身体がピクンと跳ね、

「んっ……」

 自然と小さい声が漏れてしまう。


 咄嗟に口を手で覆うも、耳に感じるのは唇ではなくて、舌先に変わっている。

 その官美的な感覚に、イヤイヤするけど、それもまた私から耳を舌で可愛がってもらうような仕草となってしまう。

 ううっ……恥ずかしい。


 口を塞いでいる掌にかかる息が、熱を持っている事を強く意識させてきて、くぐもった自分の「……んぅっ……」と甘ったるい声を零している事も、恥ずかしい。

 けど、イヤじゃない。


 むしろ、もっとと求めてしまいそうになるのを、グッと我慢して、髪の毛で顔を隠すように俯いて、教科書の隅に「えっち」「ヘンタイ」「スケスケとか無理」と書く。


 どうして秋山が、私の耳を唇と息と舌とで、可愛がるようにしているのか分からないけど、私にはプラスして言葉攻めされている感覚もあり、意地悪と甘さの匙加減がストライクすぎて、ずっと酔っていたい、この感覚に溺れていたいとさえ思わせる。


 無意識のうちに、足を閉じて太腿を擦り合わせて動かすのは、奥から溢れ出してくるモノのせい。

 いくら太腿を動かしても、その中央には触れれないもどかしさが、更に脚を擦り合わせていく。


『バレてないよね』

 と思うのは、感じている事ではなく別の事。


 チラっと横目で秋山の顔を伺うと、わたわたしている私とは違って、悪戯な笑みを浮べながら私を見つめる意地悪な瞳に吸い込まれそうになる。


 私が書いた丸い筆跡の「スケスケとか無理」の文字の上に、大きくバツ印を書いて、隣に「ノーパンノーブラ」と、角ばった男らしい文字が視界に飛び込んでくる。


 何か履いているのに、視られると恥ずかしいのと、視られた瞬間には、もう私の全てが晒されてしまう状態とでは、どっちの方が恥ずかしいのかな?

 スケスケ下着にせよ、下着を着けない事にせよ、それをする前提でいる私の脳は既に麻痺しているのだと思う。


 恥ずかしさのあまり顔を窓に向けると、大きな木が風で揺れて葉が舞い上がってひらひらと落ちていく光景を見ては、短いスカートが風でめくれあがり、無防備なお尻とアソコを曝け出し、秋山に視姦されている光景を思い浮かべてしまって顔を両手で覆い隠す。


 だって、自ら『ノーパンノーブラ』になる事を選択したのだと、認識してしまったから。

 現実的ではないからこその、別世界での妄想だったはず。


 でも、秋山だけではなく私も、それを望んでいるのだと思うと、決して別世界の妄想じゃなくて、現実的な話になる。

 そう――きっと、私はするだろうから。


 妄想だけで止めどなく溢れ出る愛液。

 どうしようもなく、快感を求めるように動く両足。

 気を抜けば、私の手は既に固く尖ってツンと上を向いている自身の乳首に向かいそうになる程に、刺激を求めている。


 どこに視線を向けても、何かを意識していまい、結局ノートに視線を落とす。

「ヘンタイ」と「えっち」には訂正を入れなかった秋山の教科書を手元に寄せて、

「無理」の代わりに「ドS」と書いて悪足掻きした教科書を元の位置に戻せば、教科書が視界からすっと消えた。


 次に現れた時には、秋山の字で私の方向に矢印が伸び「ドM」と書かれていた。

「!?」

 思わず息を飲み込み、手で口を覆ってしまったのは、図星だったから。

 私はそれを自覚しているから。


 その瞬間にトプっと愛液が溢れ出たのも分かる。

 変な声に続き、変な音まで聞かれてしまうと思うと、更に溢れてくるのだから困る。


 きっと、売り言葉に買い言葉で書いただけで、本当にバレている訳ではないと思うけど……。

『秋山が私だけを見てくれるのなら、秋山だけにはバレてもいいかも』

 なんて思ってしまうのもM性故だからかな。

 全く言い訳にならないけど、秋山だって「ドS」を否定しなかったんだし。


 そんな事を思いながらも、教科書を乱暴に奪い取り、身体が熱くなる一方だが変な音を気にして、太腿を擦り合わせるのを無理やり我慢し、内股にして踏ん張る。

 「ドM」の文字の「ド」の部分にだけバツ印を書き足して、これでいいでしょ?とばかりに教科書を戻した。


『やっぱり秋山にはバレたかったんだ』

 って、自覚してしまうと、急に意地悪してほしくなる。


 ――でも、まだだ。

 きっと秋山は私が下着を着けていない姿を確認しないまま、何かするタイプに見えないし、私好みの意地悪な秋山であって欲しいと思う。


 クスと嬉しそうに笑い、「ドS」の「ド」の文字に×印を入れる秋山の表情に、身体全体が更に熱を帯びたのは言うまでもない。

 『M』だと否定しない私と、オレは『S』だよと訴えてくる秋山。


『これからどうなっちゃうんだろう』

 私の期待感と不安感が揺れ動くけど、うん、分かってる。

 期待感の方が遥かに勝っているって事は――。

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