第3話  授業中2(女子視点)

 興味津々だけど、さりげなくを装って尋ねた私の言葉に、秋山は少しだけ何かを考えるように天井を見上げた後、真面目な表情で私の顔を見つめ返してきた。


 その顔にドクンドクンと脈打つ心臓の音が煩く感じるくらいに緊張して身体を硬直させるけど、秋山に見つめられている事が嬉しくて、目が離せなくなっているのも事実。


 その秋山の顔が不意に近づき、また私の心臓の鼓動は跳ね上がる。

「水色は好きだよ。可愛いよな。でもさ、見慣れてるからなぁ……確かに桃瀬って感じがするけど……。」


 小声だけど、好きな声音でそう言われたと同時に、肩にゴツとした男子の手の感触があって、その指先がブラウス越しから水色のブラのストラップを、なぞってくる感覚と「可愛い」の言葉とが相まって、身体がピクンと跳ね上がる。


 その艶のある仕草をもっと感じていたいと思う反面、このままだと色々とヤバイとも思ってしまう。


『誰にでもこんな事をするのかな』

 色気のあるスキンシップに対して怪訝そうに秋山の目を見つめ返すけど、肩に置かれた手と指の動きには、されるがまま。


 それは、水色は好きって言葉と、それに続いた『感じがするけど』には、まだ続きの言葉がある感じがして、それを早く聞きたい、知りたいって気持ちが心の中を支配している。


 自分でも顔を真っ赤に染め上げてしまっている事くらいは分かる。

 顔の熱は一向に冷める気配は無くて、逆にどんどんと熱くなる一方。

 もしかしたら、私の目はトロンと蕩けて……。


『そのままブラを脱がしてもいいよ』

『受け入れる準備はできているよ』

 って云う様な顔をしているかも知れない。

 そう意識すると、更に恥ずかしさが溢れ出し、顔だけじゃなく身体全体に熱を感じる。


 耳に掛かる髪の毛をそっと掻き上げ、『続きは?』目で促す。

 秋山は意図を汲み取ったのか小さく頷き、髪を掻き上げて、剥き出しになっている側の耳に顔を近づけてきた。


 ゴクンと唾を飲み込み、身体を硬直させたままの私には、この距離感は本当にヤバイ。

 私にとって都合のいい妄想が脳内で再生されていくから。


『いちいちドキドキさせ過ぎ!』

 なんてイケナイ妄想をさせる秋山が悪いとか責任転嫁して思うけど、もちろん満更ではない。


 秋山の視線が、私のスカートの中へと移動した事くらいは分かる。

 好きだと言った水色のパンツを見ているのだろうし。


 だから、私も

『水色は好きで私らしいけど何?』

 続きを急かすように右足を更に開いて、右側から見ている秋山に見え易いようにする。


 先生がホワイトボードにマーカーを走らせる音が聞こえ、生徒達のノートにペンを走らせる音も聞こえてくる中、私は秋山の熱い視線を感じ、まるでパンツではなく、その中すら視られている感覚に既視感を覚える。


 例えば、この試合に負ければ、予選敗退が決まり、3年生は引退しなければいけないのに、周囲の男子は試合なんてそっちのけで、頑張って応援しているチア部のスカートの中――水色のアンダースコート――ばかり視られている時と似たような感じ。


 だって、他のチア部員も知らない事だけど、秋山が出場するバスケ部の試合の時は、アンダースコートの下には何も着けていないのが常で、更には直履きしているアンダースコートも他の部員より薄手のモノを着用していたりする。


 だから、公然とパンチラをしていると言うのか、パンツを見せていると言うのか……を、している気分で応援席に立ち、足を高く上げたり、ジャンプしたり、スピンしてはスカートを大きく翻させ、周囲の男子に見せつけつつ、秋山の姿を追いかけて見ている。


「オレが好きなのは……桃瀬が一番似合うのは……」

 耳元で囁いてくる声は、鼓膜を犯すように刺激してくる。


 もったいぶった言い方は、焦らされているようでいて、甘くて意地悪な前戯をゆっくりと堪能させてくれているようで……。


 何だか私に、おねだりをさせたがっている風にも感じ、腹部の奥が疼き、熱い視線を注がれている場所の奥から、熱いモノが溢れ出してくるのを自覚する。


 ふっと熱い息を漏らし、たったこれだけで、私をこんな風にさせる存在なのだと、強く意識させられる。

『私に一番、似合うのは何?秋山が好きって言うなら、それを履いて見せてあげるよ』

 ――そう思ったのも束の間。


『見せてあげる』

 ではなく、私が秋山に

『見せたい』

『見て欲しい』

 のだと改めて思う。


 試合中に秋山がコートから応援席を見上げてきて、私と視線が合う時のように。

 秋山専用のアンダースコートをローアングルから見られ放題な状態なのに、ワザと脚を今のように大きく開いたりしている時のように――。

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