第2話  授業中1(女子視点)

 今日、最後の授業。 

 私は、この先生の授業がある意味においては好きで、ある意味においてはキライ。

 淡々と教科書を読んでは、板書するだけの退屈極まりない授業。

 だけど、それを良い事に寝る時間に充てている人も多い。


 この先生の授業が午前中にある時の前日は、夜更かししていると友達も言っていた。

 私も前までは、そっち派だったけど、秋山が隣の席になってからは違う。

 今は、好きな男子の顔をジックリと見れる贅沢な時間になっている。


 退屈そうにして欠伸をする顔は可愛いし、ノートにペンを走らせている横顔だって目元は前髪で隠れているものの、唇をへの字にしたり、キっと結んだりする唇に色気を感じてしまう。


 私の視線を感じているのか、左側の頬を撫でる仕草も何だか可愛いと思っていると、その仕草の後に決まって私の方に顔を向けるので、咄嗟に視線を机の上のノートに落とす。


 着席して退屈だけど贅沢な時間が始まる時に、机と机の繋ぎ目に置かれた教科書を眺め。

「ありがとう」

 小さな声で少し照れながら、秋山に向かってお礼を告げるけど、片手を小さく挙げた男子は

「ん」

と、短すぎる返事を返してきただけだ。


(素っ気なさすぎでしょ)

 心の中で悪態を付いていると、足元にコロンと消しゴムが転がったのが見えた。

 私の上履きにコツンと当たった見覚えのありすぎる消しゴムは、秋山のモノだと直ぐに分かった。


 消しゴムを拾ってあげようと、少し椅子を引いて、上体も少しだけ屈めて右手を下に伸ばそうとすれば、自然と開く太腿。

 それに気付かないままでいると、横からもゴツと骨張った大きな男子の左手が伸びてきた。


 お互いに消しゴムを拾おうとしただけなのは明白なのだけど、私の方に上体を屈ませて手を私の足元に伸ばしてくる秋山の視線は、太腿が開かれて、プリーツの裾から水色が見えている場所だと言う事に気が付いた。


(この視られ方は恥ずかしい。どこまで見えているんだろう?)

 ほんのりと頬を色付かせて、色々と思うけど、やっと秋山が興味を示してくれた感じもして、気付かないフリをしてしまう。


 今度はワザと窓側の脚を横に動かし、スカートの中が見える面積を大きくする。

 視られている事に徐々に白い太腿が赤味を帯びていく事には気付かず、消しゴムを拾う時に、お互いの指先が触れ合うタイミングを計ることに集中。


 秋山の指先が緩慢な動きで消しゴムに触れると、ここだ。とばかりに秋山の指先に私の指が重ねるように触れ、その女性とは違う感触に心臓がドクンと脈打つ。

 パンツを視られながら、指先が触れただけで嬉しくなるのもどうか?って思うけど、恥ずかしいよりも嬉しいが勝ってしまうのは、仕方がないよね。


 顔の温度が、先程より上昇するのを感じながら、名残惜しいように指を離して。

「ごめん」

 どこを見て言っていいのか分からず、少しそっぽ向いて謝るも、視線だけ秋山の様子を伺うように動かす。

 秋山は上体を起こして消しゴムを机の上に置き、何で謝るの?と、言いたげな表情で、私の横顔を見つめてくるのが分かる。


 何も知らないフリをしていたけど、秋山の視線が私の顔から、まだ大きく開いた太腿に移動する事が分かって、一気に顔だけでなく耳まで熱を持つのが分かって困る。

 このまま脚を閉じるのも今更感が半端ないから身動きが取れなくなってしまった。


 そして、厄介なのが、こうして秋山に視られている事に恥ずかしいけど、嬉しいと思っている自分がいるのを知っていること。

 ――結局は、足を気持ち閉じただけで、窓側の席の特権である窓の外をぼんやりと眺めているように装う。


 不意に耳元をくすぐってくる吐息と、大好きな声音にビクっとし、肩にかかっている髪の毛が揺れたのが分かる。

「……チアのアンダーと同じ色。そんなに水色が好きなの?」

 この言葉のせいだ。もっと言えば近すぎる距離のせい。

 まさか、秋山が私の耳元で囁くなんて思いもしなかったから、突然の出来事に頭は半分パニックになると同時に、意地悪な問い掛けに対して、(もっと)なんて思ってしまった。


 照れを隠すように……いや、そんな事を思ってしまった事を隠すように、秋山の方に顔を向ければ、眼前には好みの顔がドアップで見える。

(これってキスの距離じゃん)なんてドキドキしつつ、内心とは裏腹に秋山を軽く睨みつける。


「……見た?」

 恥じらいを隠すように、少し不機嫌な口調を作って、小声で尋ね返すと、肩を竦めて呆れた様な仕草をする秋山の仕草にドキっとし、その表情は悪戯っ子のようで、背筋がゾクッとしてしまう。


 そして、秋山は意外な事に視線を胸元に移してきた。

「お揃いなんだろ?」

 悪戯な笑みがすぐそこにある中、私は距離を取ろうともせずに、正面から瞳を絡ませ、秋山の言葉に私が豪快にブラを透けさせている事を改めて思い出させる。


(ずるい)って思うのは、スカートの中を見た事を曖昧にしている返事だから。

でも、「見たよ」って言わない所が、優しさなのかなとも思ったり、秋山流の意地悪なのかなと思ったり……。

 どっちにしても、そのずるさは私の好みだったりする。


 ブラが透けていると指摘するような言葉を無視して、胸を隠す事もせずに、(もちろんお揃いだよ)と、言うように小さく首を縦に動かして、その問い掛けには肯定の意を示し、顔の距離を取る。


「秋山は何色が好きなの?」

 以前から気になっていた事を、これを機会にそれとなく尋ねる。

「んと、それって桃瀬だったらって事?」

 秋山が、何かを考えるような表情をしたかと思うと、私にとっては破壊力がある質問が返ってきて、心の中を掻き乱される。


(そう。一般論じゃなくて、他の女子とか関係なくて、私にどんな下着を履いて欲しい?)

と、意味も私の質問には含めていたから。

(そうだ)と言えば、どんな答えが返ってくるんだろう。そもそも真面目にこんな質問に答えてくれるのかな。

 じーっと秋山の顔を見つめ、そして――小さく頷いた。

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