メアリーには敵わない

 ある時、私がメアリーの家に招かれた事があった。

 その日は二人でお揃いの白いワンピースを着て、領地の原っぱで花をいじって遊んでいた。

 お互いに花冠を作って、お互いの頭に乗せて。

 その時のメアリー、とっても素敵だったな。

 ※

 メアリーと服を取り替えっ子して、私は綺麗なドレスを、メアリーはみすぼらしいけれど動きやすいワンピースを着ていた。

 しばらく二人で、露天商が沢山居並ぶ通りを歩いていたけれど。

 メアリーが、一人で周りたいって。

 私は心配したけど、メアリーの方が意思が強くって。

 それで、結局別々に行動する事になった。

 お日様が一番高いところに来る前に、メアリーの屋敷に戻る事にして。

 でも、メアリーは昼をとっくに過ぎた時間になっても、一向に戻って来なかった。

 私は、すごく怖くなってしまって。

 屋敷の人達がメアリーを探しに行くってなっても、着いて行く事すらできなかった。

 もし自分のせいで、メアリーが怖い目に合っていたらどうしよう。

 もしもメアリーと、二度と会えなくなったらどうしよう。

 そんな不安が、心の中でずっしり重くなって、私に襲いかかる。

 私はただただ怖くて、震えているしかできなかった。


 その日の晩は、雨が降った。

 しとしと、ぽつぽつ、雨は止まない。

 お月様は分厚い雲の向こう側に、すっかり姿を隠していて、明かりのない暗い暗い夜だった。

 私は、屋敷から自分の家に帰ってきていた。

 服は、使用人の娘さんの服を借りた。

 メアリーは、まだ、戻って来ない。

 翌朝。

 雨は止んでいた。

 私は、朝はやる事がある。

 畑の手伝いだ。

 それが終わったら井戸の水汲み。

 そして朝食の支度を済ませて。

 ようやくご飯の時間になるのだ。

 だから私は、今日も朝早くに起きて、いつも通りの役目を全うし、朝食を腹におさめた。

 母と一緒に作る朝食は、いつもならとびきり美味しいはずなのに。

 今日は味があまりしなかった。

 きっと、メアリーの事が気掛かりで、食べ物を美味しいと思えなかったんだと思う。

 朝食を終えると自由時間だ。

 私は真っ先に、メアリーの屋敷へ向かった。

 小さな門を叩き、メアリーが帰ってきたのかを聞く。

 メアリーは、まだ帰ってきていないと言われた。

 私は、自分の顔が青くなるのが分かって。

 屋敷の門の前で、地面にへたり込んだ。

 私のせいで、メアリーが居なくなっちゃった。

 そんな怖い考えが頭を埋め尽くしていた時、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。

「おーい! おーい! ローズレッド!」

 元気そうなメアリーの声だ。

 私は、片手をぶんぶん振りながら駆けて来るメアリーの、いつもと変わらない姿を見て。

 気がついたら、わんわんと泣いてしまっていた。

 ああ、良かった。

 メアリーが無事で、本当に良かった。


 私はメアリーと一緒に屋敷の中に通されて、応接室で紅茶を頂きながら、グスグス言っていた。

 メアリーが言うには。

 服装が変わった所で、領民達がメアリーの事が分からなくなるような事なんてなく。

 それが悔しくなったメアリーは、領民の暮らしをじっと観察して、何か驚かせられる良い策は無いかと考えていたら。

 領民の子ども達が一緒に遊ぼうと誘ってくれたので、それにすぐさま頷き。

 気がついたら夕方になっていたので、領民の人の家に泊まる事となって。

 私との約束は覚えていたけれど、もうとにかく眠くなってしまったから。

 そのまま一晩ぐっすり眠ってしまい。

 朝になって屋敷の人達が探している事を知ると。

 ようやく領民の人の家を出て帰ってきたという事だった。

 つまり、遊んでいたら約束の時間を過ぎていて、帰るには遅すぎたからそのまま一泊したという事らしい。

 ちなみに、メアリーを泊めた領民の人達にはお咎め無しで、とメアリーが親の人にお願いしていた。

 全くメアリーらしいといえばらしいのだが。

 私は、全部の話をメアリーから聞いて、頭にすっかり血がのぼっていた。

「どれだけ心配したと思ってるの!」

 それからの私は、怒ったり泣いたり、とにかく感情が抑えられなくて無茶苦茶に喚き散らしたと思う。

 あんまりよく覚えていないけど、メアリーが私の顔を伺い見て、ごめんなさいしてくれた事は、覚えていた。

 それで私は、大声で怒っていた事が急に恥ずかしくなって。

「分かってくれたなら、いいよ」

 ボソッとそう言って、それでおしまいにした。

「で、今日は何して遊びましょうか」

 と、呑気にメアリーは言う。

 私は、メアリーのその輝かんばかりの笑顔に、圧倒された。

 私はメアリーには敵わない。

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