ローズとメアリー
それは遥か昔に、実際にあった出来事。
私には、メアリーアンという名前の大事な大事な友達が居た。
メアリーと私は身分が全然違っていたけれど、そんなの。
私達は、全く気にしていなかった。
同じ領地に暮らす、同じ歳の可愛い女の子。
それがメアリーだった。
メアリーはいつも勇敢で、反対に私はいつも臆病だった。
私の名前はローズ。
でもそれじゃあ味気ないからとメアリーが言って。
メアリーはいつも、私の事をローズレッドと呼ぶ。
――赤い薔薇の花言葉は、情熱。いつも慎重屋さんなローズには、それくらい強い意志を持ってほしいの! だから、今日からローズの名前はローズレッドね!
メアリーは、いつも前向きで、明るくて、華やかでそれでいて私よりずっと賢くて。
私は、そんなメアリーアンと友達になれた事を、とても誇りに思っていた。
でもメアリーは、いつも私を驚かせる。
ある日、メアリーは私にこんな事を言った。
「ねえ、今日はあたし達、お互いの服を取り替えっ子しましょうよ?」
「そんなの、いけないよ。メアリーが危険な目に合っちゃうかもしれないよ」
私とメアリーは、身分が違う。
私は小麦農家の娘で、メアリーは領主の娘。
世間を知らないメアリーにとって、それはあまりにも危険な事に思えた。
私は、メアリーが怖い目に合うのが嫌で、最初は確かに断った。
でも、メアリーはそれくらいで引き下がるような人間じゃなかった。
「大丈夫よローズレッド。もし危険な目に合ったとしても、あたしが逆に返り討ちにしてあげるんだから! ね、今日一日、お互い自由に過ごすのよ! とっても素敵だと思わない?」
メアリーは、いざという時の為に護身術を教わっている。
だからなのか、とても自信満々に言い放った。
教養のない私には、分からない事なのかもしれない。
それに。
――自由。
その言葉に、私はどうしようも無く惹かれてしまった。
お互いの服を交換するだけ。
しかもそれは、今日一日だけ。
だったら、メアリーは大丈夫なんじゃ無いか?
教養もあって、護身術も習っていて、勇敢なメアリー。
大丈夫、かもしれない。
そう思うと、つい私は首を縦に振ってしまっていた。
「一日だけよ、メアリー」
「やった! 約束よ、ローズレッド!」
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